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電子書籍に高まる出版社の期待

12月2日に東京電機大学で開催された、「版元ドットコム入門・電子書籍の状況から作り方売り方まで」に参加してきました。版元ドットコムは、出版社が共同で書誌データベースを構築し、ネット上での本の販売を行うなど流通改善を目的とする団体で、この記事を書いている現在で156社が加盟しています。

この版元ドットコムが主催した今回の勉強会は、電子書籍ビジネスの現報告状をはじめ、その具体的な作り方や手順の講習、さらには国立国会図書館の進める「電子図書館」構想やアメリカで一足先に進んでいる本の「クラウド化」の構想など盛りだくさんの内容で、200人を超える参加者がありました。

扶桑社の梶原氏(中央)、漆山氏(左)。

当日の登壇者と演題は下記のとおり(敬称略)。

「電子書籍の制作と販売の実際」 梶原治樹(扶桑社 デジタル事業推進チームマネージャー)、漆山保志(同 電子書籍担当)、「PC/iPhone/携帯での配信実例」 鎌田純子(株式会社ボイジャー取締役 制作企画担当)、「.bookをinDesignから作ってみた(デモ)」 山田信也(ポット出版 デザイナー)、「国立国会図書館のすすめる資料の電子化の構想と現状」 田中久徳(国立国会図書館)

勉強会の詳細な内容については、同時中継されていたツイッターのログを参照していただくとして、ここではおもに私の感想を書くことにします。

まず、「電子書籍」をテーマとする地味な勉強会に、これだけたくさんの出版関係者が集まったことには驚かされました。今年に入り、グーグルの「ブック検索」集団訴訟の和解をめぐる騒動があり、アマゾンもキンドルを世界同時発売するなど、「書物電子化」への流れはスピードアップしています。これらの出来事が今後、日本の出版界に与える影響はきわめて大きいと思われます。

電子書籍の分野におけるアマゾンとグーグルの台頭は、出版社とハードウェア・メーカー主導で進められ、成果を上げずに終わった日本の過去のさまざまな電子書籍プロジェクトへの反省を迫っています。ひとことで言えば、電子書籍の主戦場はこの数年に、端末側からウェブへと完全にシフトしたのです。

ボイジャー鎌田氏のプレゼンは、ドットブックによるワンソース・マルチユースを強調。

最後にインターネット・アーカイブのブルースター・ケールがビデオで登場。

もう一つは、図書館あるいはアーカイブというかたちで、過去に出版された膨大な本のコンテンツをどう電子化し、再利用していくかという観点の重要度が高まったことです。国立国会図書館の田中久徳氏が紹介した、現館長・長尾真氏の進める「電子図書館構想」や、最後にビデオ上映されたインターネット・アーカイブのブルースター・ケールによる「Book Server」構想は、従来の「電子出版」の概念を変える、画期的な提案といえそうです。

出版社を中抜きにして電子書籍の出版は進むのではないか、という議論もありましたが、先行するアメリカでは、出版社が電子書籍の出版主体として機能しています。むしろこれまで、あまりにも日本の出版社は書物の電子化に後ろ向きだったのではないでしょうか。

長引く出版不況や、グーグルやアマゾンといった「黒船」的な外国勢の脅威によって、ようやく重い腰を上げた、というところでしょうが、業界を挙げて取り組むべき課題は山積しています。今回の勉強会をきっかけに、書籍の電子化に対する出版社の意識が大きく変わることを期待しています。

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執筆者紹介

仲俣暁生
フリー編集者、文筆家。「シティロード」「ワイアード日本版(1994年創刊の第一期)」「季刊・本とコンピュータ」などの編集部を経て、2009年にボイジャーと「本と出版の未来」を取材し報告するウェブ雑誌「マガジン航」を創刊。2015年より編集発行人となる。著書『再起動せよと雑誌はいう』(京阪神エルマガジン社)、共編著『ブックビジネス2.0』(実業之日本社)、『編集進化論』(フィルムアート社)ほか。
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