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第4回:comicoノベル〜マンガと小説のシナジーをめざして

comicoノベルは、マンガアプリとしての存在感では随一となったcomicoが2015年4月から手がけている投稿小説プラットフォームだ。吹き出し形式でのユニークな小説制作を謳ってスタートしたが、通常の小説も手がけるスタイルへとリニューアルしている。現在この事業を担当しているcomicoノベル編集部の伊丹雅文氏に現状と戦略を聞いた。

「吹き出しスタイル」で小説を読む

——「comicoノベル」の現状を教えてください。

伊丹:ダウンロード数はマンガとあわせた数字のみ公開させていただいていますが、世界累計2500万ダウンロード、国内は1400万ダウンロードです。日本はじめ韓国・台湾・タイとアジア中心にサービスを展開しています。

comicoでは誰でも投稿できるチャレンジ作品の中から、我々が原稿料とインセンティブをお支払いして週刊連載していただく公式作品へのステップアップがあることが特徴の一つです。comicoノベルとしては、サービス開始2年で150作品が公式作品(完結作品含む)として公開されています。チャレンジ作品も含めると約8700作品で、日々増加していっています。

——comicoノベルは吹き出し形式で小説を書いたり、読んだりすることが一つの特徴でした(切り替え機能もある)。そちらは現状いかがでしょうか?

伊丹:マンガと同様にスマホに特化したサービスとして位置づける中で、吹き出しを活用した会話形式とすることで、ふだん小説を読まない方にも親しんでもらえるのではないかと考えスタートした、という経緯があります。現在、およそ吹き出しスタイルが全体の約8割を占めています。

さらに最近では、そこから派生したスタイルの会話だけで一切地の文がなく物語が進む、『知り合いかも?』や、吹き出しの中の顔文字を生き物に見立てたホラー『文字生物( ^ω^ )育成日記』といった作品も生まれてきています。

いずれもcomicoで開催しているコンテスト受賞作で、そこから公式作品になりました。このように私たちが当初想定していた使われ方を超えた作品も生まれてきていて、今後も楽しみなスタイルだと思っています。

——一方で、一般的な小説スタイルの作品投稿や公開も始められました。競合も多いわけですが、どのように差別化されようとしていますか?

伊丹:今年3月からそのようにリニューアルしたのですが、現在ではそちらの形式の投稿数の方が多いという状況ですね。スマホに最適化された吹き出し方式が小説を読むきっかけになってほしい、そこから一般の小説・書籍も盛り上がってほしい、という思いはあったのですが、カジュアルなものだけでなく重厚な物語も読みたいというニーズに応えていくには、従来のスタイルのラインナップも必要だと考え、一般的な小説スタイルのものも取り入れました。実際、従来型の作品もよく読まれているという手応えを持っています。

差別化については、私たちが抱える読者層の違いが大きいかなと思います。他の小説サイトは、20代中盤から後半の男性が多いのではないかなと思いますが、私たちはもともとマンガでスタートしたということもあり、マンガサービスと同様に10代〜20代前半で女性の割合が6割と多いのです。

小説についても、そういった方々にどういう作品を届けていくか、ということになると方向性は自ずと変わって来ます。スマホネイティブな人たちですから、普段はゲームや音楽などもスマホ上で楽しんでいる。自社の中でも競争があります。マンガを読むためにcomicoアプリを開いた人に、いかに小説に関心を持ってもらい、読んでもらえるのか、ということですね。

マンガとのシナジー戦略

——マンガカテゴリとはどのように連携を図っているのでしょうか?

伊丹:マンガを読み終わると、その下にノベルへの誘導が出てきたり、その逆もしかりといった相互送客の仕組みはあります。また、ノベル発の作品をコミカライズするといったことも行っています。

4月には『アニメーションへようこそ』という完結作品をコミカライズし、comicoのマンガカテゴリで公開しています。

この原作はコンテストで投稿されたチャレンジ作品から公式連載になったもので、マンガ家さんも、ベストチャレンジ(公式連載の一つ前の段階)に投稿をしていただいた方に私たちからお声がけをしてマッチングし、初の公式作品として連載が始まりました。この取り組みの目的は、マンガ・ノベルを別々に展開してきたcomicoで、その二つを融合させたいというものでした。物語と絵、それぞれの得意を活かしたクリエイターによるコラボを生み出す施策の一環でもあります。

——先ほどcomicoでは女性ユーザーの割合が多い、というお話でしたが、このタイトルを見ると男性向けのようにも見えます。

伊丹:そうですね。一方で、comico全体としてはジャンルのラインナップを充実させて男性の比率も上げていきたいという思いもありますので、この作品をピックアップしています。

同様の取り組みとしては、6月28日よりコミカライズ連載が始まった『天才クソ野郎の事件簿』という作品もあります。こちらはcomicoがスタートする際、弊社からお声がけした作家さんが原作を手がけています。医学生が難事件を解決していくというミステリー作品です。作画は既に公式作家となっている方にお願いしていますが、こちらも男性に支持されるような作品展開を目指したものになりますね。

——マンガと小説でアプリ内でも微妙にユーザー層が違うのだと思いますが、その中でもシナジーがありそうな層・充実を図っていきたい層を狙った作品から、まずはコミカライズ展開をしたということですね。チャレンジ作品の作家さんをコミカライズ、つまり原作付きの作家さんとして公式連載に起用するというクリエイターと、クリエイティブ両面からのシナジーを目的としていると理解しました。こういった取り組みを進めるにあたって、コミックとノベルの編集部はどのような体制になっているのでしょうか?

伊丹:立ち上げ時は編集部の中に、マンガ担当・ノベル担当という役割分担があったのですが、いまはノベル編集部として独立しました。組織として別々にはなりましたが、横の連携は以前よりも強化されています。それぞれ単体でできることはもちろんあるのですが、同じcomicoのアプリ内でそれぞれの強み、課題を結びつけて、コミカライズだけでなくいろいろな連携が図れるはずだという意識があります。

——それぞれの強み・課題について、もう少し伺えればと思います。例えば競合と比較すると、「小説家になろう」の場合はマンガを扱っていません。「エブリスタ」はDeNAとしてはマンガボックスを擁していますが、ユーザーからは別のブランドとして認知されていると思います。comicoという一つのレーベルのもとに、小説とマンガというプラットフォームを展開できているのは強みではあると思うのですが、課題はどこにあるのでしょうか?

伊丹:小説については、やはりまだまだ読者を増やさなければというところですし、マンガは読むけど、そもそも小説をあまり読まないという人たちに、どう読んでもらえるか、といった取り組みについては引き続き課題ではありますね。これは、コミカライズ作品をきっかけにノベル原作に興味をもってもらいたいと思っています。そして、日頃から小説を読んでいる人たちにも、「comicoノベルって新しいよね」と思って入って来てもらいたい。課題でもあり、これらの取り組みが自社でできるというのは強みでもあると思っています。

マンガのほうも、新作をどんどん生みだしていきたい、という状況のなかで、原作のニーズが高まっています。描き手の方も、作画は得意だけど物語は苦手という方も多いのです。実際、専門学校などを見ていてもイラスト科の人気の一方で、(物語作りも求められる)マンガ科の人数が減ってきていると聞きます。絵と物語をうまく結びつけることができると、クリエイターが世の中に作品を出すきっかけをより生み出すことができるはずなのです。

読者の反応を意識した作品展開

——権利関係についても伺えますか? 小説投稿サイトの作品がマンガ化、アニメ化される例が増えていますが、comicoに小説を投稿した場合、コミカライズもcomicoが優先的に行うような規約になっていたりする、といったことはないのでしょうか?

伊丹:規約でそのように縛っているということはありません。またコミカライズを前提とした作品を一般公募(コンクール)で募るということはしていません。公式連載などを通じて、私たちが既にお付き合いをさせていただいている作家さん同士を、我々が間に入って、マッチング・調整を行いながら実現させています。

——なるほど。comico内でのコミカライズというのも今後投稿者の一つのモチベーションにはなってくるとは思うのですが、現状数ある投稿サイトからcomicoノベルに作品を投稿しようというモチベーションは主にどこにあると捉えているのでしょうか?

伊丹:現状では、吹き出し方式という独自のUIに魅力を感じて投稿していただいているというのが大きいと思いますね。先ほど「重厚さ」というお話をしましたが、投稿がより気軽に行えているという面もあります。結果的に、若い読者さんにも分かりやすい物語になっているとも思います。

吹き出し方式で気軽に投稿する。そこに読者さんがついて、応援コメントがつくことで、さらにモチベーションが湧いてくる。続きを楽しみにしてくれている人がいて、それが可視化されているというのは、投稿サイト全般に言えることですが、大きな魅力となっていますよね。たとえ「しばらくお休みします」という告知を出しても、「新作・続きを待ってます」というコメントがついたりしますので。

もちろん、投稿の気軽さ、その上での読者とのコミュニケーションの先に、公式作家になる。つまり、原稿料を受け取りながら連載をしてみたい、更にその先にある書籍化・映像化を目指してみたいというモチベーションもあるかと思います。これもcomicoならではということになりますね。実際、新しいジャンルの公式作品の連載が始まると、チャレンジのほうでも似た作品が次々と投稿されます。どういう作品をいまcomico編集部が求めているのか? というのを敏感に作家さんは見ているなという印象をもっています。

『そのボイス、有料ですか?』という作品は、comicoノベルサービス開始を記念したコンテストで優勝し、そこから公式連載となりました。この作品はコミカライズ連載は講談社の「なかよし」で実現し、単行本も発売されています(小説の書籍化はKADOKAWAから)。「自分の好きな声優さんとそっくりの声の男の子とのラブストーリー」ですが、オタク過ぎず、それでいて「声」という共感しやすいテーマをうまく扱っています。それが応援コメントの多さにもつながっていますし、comicoでの連載では読者目線、つまり読者の反応を意識した展開になっていて、それも支持につながっていると思います。

comicoも「なかよし」も10代〜20代前半の女性の比率が高いというなかで、重厚な物語よりも分かりやすさ、毎週単位のコンパクトな物語でも面白さが伝わる展開が受け入れられる、という点で共通点が多かったと思います。

作家を育成するシステム

——「なかよし」での連載というのは、現状のユーザー層のcomicoならではという印象を受けます。それにしてもマンガ誌や小説投稿サイトが専門特化する傾向にあるなかで、comicoアプリのなかでオールジャンルを目指そうという姿勢であるのはユニークです。

伊丹:まずは多様な作品が投稿され、読まれ、コミュニケーションが生まれる場であることを目指そうという段階ではあるかなと考えています。

マンガ・小説に共通する仕組みとしては、ベストチャレンジから公式へ、というステップが用意されていることも私たちのユニークなところかと思っています。ベストチャレンジの段階では、まずは作品を書いて投稿するという最初のハードルをクリアしていただく必要があるのですが、公式連載が始まると、いかに続きを読みたくなってもらうか、ということを意識して物語を生みだしていくことになります。プロとしては当然ではあるスケジュールを守るといったことも含めてですね。その経験は、その後の作家活動においても重要な経験になるのではないでしょうか。

——つまり作家の育成を自前のプラットフォームの中でカバーしようということだと思います。そこに小説の場合はどのくらいリソースを割り当てているのでしょうか?

伊丹:まず中心に据えているのが、読者の存在ですね。ランキングを決定するのも読者からの応援=評価です。それをサポートするために、comico編集部では公式連載の際には、担当編集がつき、物語の構成から、キャラクターの名前まで相談させていただいています。連載が公開される際にも、先にチェックを行ってから、ということになります。

担当編集者については、作品作りのアドバイスはするけれども、「こうしよう」「こうしなさい」というところまでは踏み込みません。一読者、最初にその作品に触れる読者として、comicoでの傾向と分析をお伝えするという立ち位置です。それをどう作品に反映するかはあくまで作家さん次第で、ここは出版社の編集さんとは異なっていますね。

——育成といっても、従来のものとはかなり異なっているということですね。comicoノベルのユニークさが明確になったと思います。最後にcomicoノベルの今後の展開・展望についてお聞かせください。

伊丹:多様な作品をラインナップするという段階ですので、「こういう作品を」という明確なお話はできないのですが、やはりスマホに最適化された吹き出し方式という気軽なフォーマットを活かしながら、従来の小説の「お約束」に縛られない新しい書き手を発掘し、ここで育ってもらえるような環境作りをしていきたいですね。全体のなかで吹き出し方式が占める割合は減っていくとは思いますが、引き続きそういう観点からは、重要な存在だと考えています。

* * *

投稿サイトの多くは、作家の発掘の場となっている。逆に言えばその先の育成については、書籍化などの活動を通じて出版社に委ねているという見方もできるだろう。comicoの場合は、ベストチャレンジでの発掘から公式での育成というところまで自前で実現しようとしているのが独特だ。コミカライズを絡めながらのその成否は、現在も進む書籍化・映像化などの結果を見ていく必要があるが、ネット投稿小説サイトの一つのあり方として特異な存在であるということはおさえておきたい。

執筆者紹介

まつもとあつし
ジャーナリスト/コンテンツプロデューサー。ITベンチャー・出版社・広告代理店などを経て、現在フリーランスのジャーナリスト・コンテンツプロデューサー。ASCII.JP、ITmedia、ダ・ヴィンチ、毎日新聞経済プレミアなどに寄稿、連載を持つ。著書に『知的生産の技術とセンス』(マイナビ/@mehoriとの共著)、『ソーシャルゲームのすごい仕組み』(アスキー新書)など多数。取材・執筆と並行して東京大学大学院博士課程でコンテンツやメディアの学際研究を進める。http://atsushi-matsumoto.jp
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