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第1回 Kindle Unlimitedは貧乏大学院生への福音となるか?

人は千差万別な事情があって大学院に通うことになるわけで、理由や動機はともかく入ってしまったが最後、史料/資料を集めることからは逃げられない。これには万人が同意してくださるところであろう。

今回、連載の機会をいただいたので、現役大学院生の図書利用術を、電子書籍やデジタルアーカイブを含めて紹介してみたい。名づけて「アーカイブ・ハック」、ようするにケチケチ利用術である。

「借りるより、ポチってしまえ 、ホトトギス」

新幹線片道2時間半の通信制大学院に遠距離通学しているため、大学の図書館はほぼ利用できない。先日、所属大学図書館で借りてみた(1冊2,400円の本)のだが、約月イチでの登校なので、期限である3週間に返却は間に合わない。期限切れになると同時に、ご丁寧に電話での「返却願い」が留守電で入る。返却したところ今度は「あなたの返却には不備がありました」とのメールがわざわざ送信されるほどの手厚さだ。

大学図書館側としては郵送貸出を整えているのだ、充分なサービスなのだと仰るかもしれないが、たった3〜5冊借りただけで配送料が往復1,200円以上(従量課金)かかる。職員によるお叱り手間賃を返却送料に還元したほうが返却促進には有効なのではと思う。返送の手間と余計な出費とお叱りでイライラを産み出し、かつ手元に残らん貸出本。いずれにせよの出費であれば、ええいうっとうしい買ってしまえとなるのが人情だろう。

そのような図書館難民なので、最近は、借りるより買ってしまうことが増えた。もうこれは致し方ない。自然の摂理である。おかげでAmazonが儲かるという寸法だ。Amazonは新品も古本も一緒に検索でき、さまざまな古本屋のさまざまな状況の古本も一括検索できるのがよいところだ。かつては「日本の古本屋」の常連であったが、いつの頃からかAmazonで探すのが先になってしまった。

私はAmazon Student会員なので、プライム会員と同等のサービスが受けられ、さらにAmazon.co.jp が販売する該当書籍を購入するとAmazonポイント+10%となる特典もある。ゼミで「これ読まなあかんで」と言われたそばから、目の前のPCでサクッと検索してとりあえずポチれば、家に着く頃には到着している(こともある)。見たことがない本は「なか見!検索」もあるので目次も読めて安心だ。

Amazonが日本でサービスを始める前、つまり20世紀には、こんな便利なサービスはなかった。そこで誰もがやっていた(はずな)のは、本屋と図書館で目次と後書きをチェックしてから生協で発注する、というフローだったのではないか。ユーザーとしてのタスクは21世紀の現在もまったく変わっていないが、チェックと発注のための労力が減ったわけで、文明の進化はまことに素晴らしいと言うほかない。そしてAmazonでブックサーフィンしていると、当然、Kindleバージョンもあるよ、という本が出てくる。

そんな私の前に福音のように登場したのが、Amazonの月額固定・電子書籍読み放題サービス、Kindle Unlimitedである。月額は980円だが、30日間の無料期間があるというので、さっそく試してみた。

アマゾンが日本でも始めた読み放題サービスKindle Unlimited。さっそく無料体験をはじめてみた。

Kindle Unlimitedは節約術になるか

まず最初に結論を言おう。Kindle Unlimitedは大学院生としての節約術にならない。これが実感だ。「大学院生としての」 ということは、論文や課題、レポートを書くのに参考になる文献がどれだけ読めるか、ということだ(もっと言うと参考文献リストに書いて指導教官に怒られない著者の本、とも言える)。

調べてみたところ、直近1ヶ月でAmazonで買った本(Kindle、新品本、中古本、送料含む)の合計金額は、送料込みで12,555円だった。ここから論文には関わらない本を除くと、合計11,475円(8冊)。1冊平均約1,400円。一方、Kindle Unlimitedの利用料は]たった月額980円(税込)。このうちの1冊でも利用できるのであれば、万々歳ではないか。そう皮算用していたのである。

直近一ヶ月に買った本で、Kindle版が出ているものは1冊、しかもUnlimited非対応であった。

だが、さらに調べてみると、この直近一ヶ月の8冊のうち、Kindle版があるのは1冊(白幡洋三郎プラントハンター―ヨーロッパの植物熱と日本』、講談社選書メチエ)だけだった。Kindle版より古本が安かったのと、図版が多用されている本なので、このときは紙で買った。今回あらためて確認したところ、Unlimited対応ではない。無念。

8冊を調べただけではあまりにもデータが少なすぎるので、さらに大学院の研究やレポートのため購入した関係書籍を加え、全20冊を調べてみたが、有料課金Kindle版が存在するのは前述の1冊のみであった。電子書籍化の確率は1割に満たず、しかもその1冊はUnlimited対応ではない。残念ながらKindle Unlimitedは、大学院生としての書籍代節約術としては当面、役立ちそうにない。

マイ・パーソナル・漫画喫茶?

ところで紙のマンガを購入しなくなって、もう随分経つ。貧乏大学院生は人生を賭けて収集したマンガストックを切り崩して、なけなしの棚を論文関連書籍に解放するよりない。そのような棚難民が、マンガを電子コンテンツとして購入するようになるのは必然の流れである。

残念ながら論文関連書籍では当面まったく役に立たなそうなKindle Unlimited。しかし貧乏学生としては、それを抜きにしても書籍代の節約術になるかどうか、気になるところだ。

そもそも私は、完全にマンガは電子派なのだ。紙のマンガはここ数年、1冊も買っていない。すべて電子コミックである。最近1年間で電子コミックに使った金額を計算してみたところ、片手の数万円くらいにはなっていた。ただし「これを読もう」という明確な意志はほぼなく、ネットでみかけた「おすすめリスト」に入っていたからなんとなくとか、「第一巻は無料」という文言につられて読み始めることが多いという、大学院生らしからぬ思考停止的利用法だ。

Kindle Unlimited対応のマンガを活用することで、このウン万円の一部は節約できるかもしれない。しかしこれは、時間の節約にはまったくならない。ほとんどマイ・パーソナル・漫画喫茶である。社会人大学院生としてこの奈落に身を乗り出してよいものなのだろうか。

眼下に広がる電子の暗闇は、いとも優しく私を見上げている。ネットをちょっと検索すれば、優良な読むべき「おすすめマンガリスト」が出てきて、あっと言う間に一日が経過しそうな冊数がラインナップされている。これとdアニメとかを契約していたら人生「詰む」気がするが、一方で楽園の匂いもする。

怠惰で流されやすい自宅警備系院生にとって、無料で読めるマンガの山は時間を消費するのにうってつけだ。Kindle Unlimitedは、修論の締め切り直前は絶対に契約を切っておかなければならない(もちろん今も30日間の無料契約期間中である)。

(つづく)

執筆者紹介

山田苑子
貧乏文系社会人大学院(修了)。テーブルトークRPGと舞台芸術を養分に育ち、学生時代は薄い本作りに全財産をつぎ込む。夢のサラリーマン生活を6年送った後、不適合の烙印と共に独立。現在は個人事業主と法人代表の二足の草鞋を履く。趣味は大学入学と積読と睡眠。母親から譲り受けた季刊誌『銀花』の山を売りあぐねている。書庫を持つ夢を捨てられない専門誌ライター。剣道三段。
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