小林恭子さんが「マガジン航」に寄稿した「ロンドン・ブックフェア2013報告」を読んで刺激を受け、私が一人で勝手に「日本独立作家同盟」を設立したのが2013年9月1日です。「インディーズ作家よ、集え!」を書いた10月31日ごろには、Google+のコミュニティ参加者はまだ70名くらい、自己紹介(参加表明)の投稿をして参加者一覧に名前を連ねた方が30名くらいだったと記憶しています。
それが、「マガジン航」への寄稿から、一気に参加者が増え、本稿執筆時点でGoogle+のコミュニティ参加者が197名、自己紹介(参加表明)の投稿をして 参加者一覧に名前を連ねた方が107名という規模になってきました。「作家同士の助け合いによって互いに研鑽し、素敵な作品を生み出せるような土壌を一緒 に育てていきましょう!」という呼びかけに応えてくれた方々が、これだけ多くいたことを大変嬉しく思います。
「月刊群雛 (GunSu)」とは?
さて、日本独立作家同盟は1月28日に、「月刊群雛 (GunSu) ~インディーズ作家を応援するマガジン~」を創刊しました。「インディーズ作家よ、集え!」でも、個人作家にとって最も高いハードルは「告知すること」だという指摘をさせていただいた通り、デジタル化・ネットワーク化によって制作と発表のハードルが下がることで、たくさんの作家や作品が生まれ、そして埋もれていっているのが現状です。海へ一人で小石を投げ込んでも、小さな音と小さな波紋が広がるだけ。一人でできることには自ずと限界があります。でも、何人か集まれば、大きな石が投げられるかもしれません。もしかしたら、荒れる海に大きな波紋を残せるかもしれません。そういう思いから、この雑誌は生まれました。
発行は「BCCKS」から電子版とオンデマンド印刷版で、在庫は持ちません。電子版は、Kindleストア、iBooks Store、楽天Koboにも順次配信します。オンデマンド印刷版の判型は10インチ(W148×H192mm)で、BCCKSで制作できる最大ページ数の320ページです。当初、文庫サイズで出そうと思っていたのですが、ボリームの多さを文字サイズを小さくすることで対処しようとしたら、5円玉の穴に2文字入るくらいの極小サイズになってしまうことがわかり、急遽サイズを大きくしました。
「群雛」という名前は、雛の群れを意味します。巣で親鳥が餌を運んでくるのをただ待つ雛ではなく、大空を飛ぼうという強い意志を持ち、両足で大地を踏みしめ、まだ羽の生え揃っていない両手を懸命にバタつかせている雛の群れです。大切なのは、「いつかあの大空を飛んでみせる」という意思と、そのために努力ができるかどうかだと私は考えます。
Google+のコミュニティ参加は、Googleアカウントさえあれば1クリックで完了します。しかし、「同盟の参加者」として名前を連ねるには、自己紹介(参加表明)が必要というハードルを設けました。先に数字を挙げた通り、自己紹介(参加表明)をしている方はコミュニティ参加者の半数です。残りの方は、同盟の動向を見守り、応援してくれている方々ということでしょう。
「月刊群雛 (GunSu)」への掲載も、まず必要なのは意思表明です。Google+のコミュニティで「月刊群雛 (GunSu)」参加者募集の「イベント」を立てると、同盟コミュニティ参加者全員に「招待状」通知が届きます。そのイベントに、参加の意思表明コメントをした人から順に掲載するというスタイルを採っています。要は、早い者勝ちです。参加したくない場合は、イベント通知で[いいえ]をクリックするだけです。以後、その号の募集に関しては通知は届かなくなります。
掲載可能な作品は、文章、漫画、イラスト、写真です。表紙枠が1人、新作枠が5人、既刊サンプル枠が10人です。作品の巧拙は問いません。フィクション、ノンフィクション、エッセー、詩、批評、論説、ビジネスなど、ジャンルも問いません。ただし、R18は対象外です。著作権や商標など、法律上問題があると判断した場合は掲載をお断りします。もちろんお金もかかりません。収益は、新作を掲載いただいた方々と編集でレベニューシェアします。
ちなみに、創刊号の参加者募集イベントは、募集開始から2時間半で表紙と新作枠が埋まり、2日半で既刊サンプル枠まですべて埋まりました。その後も何人か参加希望者があり、お断りしなければならないほどでした。配信プラットフォームのファイル容量制限や、印刷版のページ数制限、制作工数の問題があるので、 「いくらでも載せます!」というわけにはいきません。
従来型の同人雑誌と何が違うのか
こういうスタイルの出版は、特に珍しいものでも目新しいものでもないでしょう。文芸同人雑誌の起源は明治時代、尾崎紅葉らによる硯友社の「我楽多文庫」まで遡ると言われています。漫画の同人雑誌も、第二次世界大戦直後からあるそうです。「同人」の世界には、先駆者が大勢いらっしゃいます。最近は「同人誌」イコール二次創作みたいなイメージを持っている方も多いですが、「コミティア」のようなオリジナル創作限定の同人誌即売会も盛んですし、「コミックマーケット」にオリジナル作品でサークル参加している方々もたくさんいます。
「月刊群雛 (GunSu)」の特徴は、在庫を持たないことです。仮にフルカラーオンデマンド印刷でA4サイズ32ページの小冊子を100部作ったら、約10万円かかります。それだけの費用をかけるとしたら、回収することも重視せざるを得ません。「作品のジャンル・巧拙を問わない」なんて生ぬるいことは許されず、商業出版と同じように掲載作品を選別しなければならないでしょう。
在庫を持たない形にすることで、それほど直接的な費用をかけずに制作できます。もちろん商品として提供する以上、表記の統一や誤字脱字のチェックなど、それなりに編集コスト(直接的な費用ではなく、時間と労力)はかけています。そのコストを回収することさえ、正直難しいと思っています。ただ、「それほど儲からなくてもいい」という割り切りができると、比較的自由にやれます。電子出版のプラットフォームによって、そういうスタイルの同人雑誌も可能になったのです。
そしてここにも、先駆者がいます。私が知っているだけでも、佐々木大輔氏・忌川タツヤ氏らによる「ダイレクト文藝マガジン」、堀田純司氏らによる「AiR」、古田靖氏らによる「トルタル」、鈴木秀生氏らによる「ネット出版部マガジン LAPIS」などです。ただ、残念ながら、いずれも現在は続刊が出ていない状態です。「トルタル」は次号を準備中とのことですが、他は今どうなっているか分かりません。
こういう状況をみるに、恐らくこういう同人雑誌は始めることより続けることの方が大変だということなのでしょう。だから私は、初めから「月刊誌」だと宣言することにしました。毎月、最終火曜日発売です。明確な締め切りがあることで、かけられる時間と労力に制限ができます。私も凝り性なので、できることなら徹底的にやりたいたちです。でも、いつまでもクオリティにこだわることより、スケジュールを守って出し続けることの方が重要です。ここでも、割り切ることにしました。
もう一つ重要なこととして、参加作家にきちっと対価をお返ししたいという私の思いがあります。恐らくそうしないと、いずれ継続していくのが難しくなってくるでしょう。だから、安売りをするつもりはありませんでした。そもそも、インディーズ作家の同人雑誌を欲しがる人は、恐らくそれほど多くありません。ターゲットはマスではなく、ごく限られた好事家です。多くの電子出版プラットフォームの最低単価である100円で売っていた同人雑誌がいずれも休刊状態になってしまっている現状を見ると、安売りしたところで多くの方には売れないということになるでしょう。
だから、単価設定は非常に悩んだのですが、インディーズ作家を応援することを目的とし、年間1万円くらいを投資してくれる方が100人くらいいれば、新作を載せてくれた方々に1人あたり5000円くらいはお返しできるだろうと試算し、電子版は1部840円(本体価格800円+消費税40円)という設定にしました。正直、目標100部というのも、非常に高いハードルだと思います。また、オンデマンド印刷版は判型やページ数で原価が決まるので、利益をほとんど載せなくても1部1932円(本体価格1840円+消費税92円)という単価になってしまいました。創刊号は320ページというボリュームなので、ご勘弁下さい。
告知する努力をするということ
最後に、個人作家にとって最も高いハードルである「告知すること」について。簡単なことではないのは、間違いありません。しかし、自分の作品を世に送り出したいのであれば、それ相応の努力が必要です。日本独立作家同盟のコミュニティに自己紹介(参加表明)をした人で、Google+のプロフィールに名前しか入力していない人が何人もいました。そのたびに、「プロフィール情報をある程度充実させましょう」「プロフィール写真を入れましょう」という提案をしてきました。日本ではマイナーなGoogle+はともかくとして、TwitterやFacebookをやっていない人、ウェブサイトやブログを持っていない人も大勢います。
作品を売ることは、自分を売ることでもあります。「自己紹介してください」「作品紹介をしてください」と言われたときに、やっつけ仕事でたった一行だけ書いてくる方もいます。別にそれを拒みはしませんが、あえて厳しい言い方をすればこの人には自分の作品にその程度の思い入れしかないのだな、と私は判断します。もちろん一般読者にも、その思いの軽さは伝わります。作品の中身もその程度なのだと判断されるでしょう。それで「売れない」とぼやくことなど、はっきり言っておこがましいです。膨大な作品が次々と生まれ埋もれていく中で、努力もせずに売れることなどあり得ません。自分自身や作品の紹介すらろくにできない人が、自らの作品によって他者の心を揺り動かすことなどできるでしょうか。
繰り返しになりますが、同盟や「月刊群雛 (GunSu)」への参加に、作品の巧拙は問いません。ただ、「いつかあの大空を飛んでみせる」という意思と、そのための努力は惜しまないでいただきたい。無名の個人作家にできるのは、一生懸命やることだけです。
http://bccks.jp/bcck/118927/info
■関連記事
・インディーズ作家よ、集え!
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・ソウルの「独立雑誌」事情[後編]
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執筆者紹介
- フリーライター。日本独立作家同盟理事長。実践女子短期大学非常勤講師(デジタル出版論/デジタル出版演習)。著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(インプレス)。
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