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第2回 一巻書房は、新しい批評だ!

僕の10年来の友人に岩淵拓郎という人物がおりまして。

岩淵拓郎@mediapicnic
73年兵庫県宝塚市生まれ。演劇→バンド→パフォーマンス→執筆→編集→美術→料理→ブログ→一般批評と映画(イマココ)。京都造形芸術大学講師。宝塚映画祭ディレクター。美術家は2010年に廃業しました。(キリッ

このTwitterプロフィールを見ていただいてもお感じのように、なかなか「こういうことやっている人」と一言で紹介しにくいのですが、まぁ、とにかくいろんな文化ジャンルを横断しながら、かつてはバンドマンだったり、美術家と称してた時代もあったり、アートスペースの運営にも関わっていたり、でも仕事のベースはわりかし編集と執筆業にあったりと、実に突っ込みどころが多く、とっても興味深い働き方・動き方をしている人物なんですね。

そんな彼が、二年前から本に纏わる謎の行動を始めたんです。

岩淵「あのさ、最近、マンガの一巻だけ集めて、色々読み漁ってるねん。」
アサダ「えっ? どういうこと?」
岩淵「一巻だけやったら一杯マンガあるから貸したるで」
アサダ「えっ?」

その名も「一巻書房」
「本のある場所を“出来事の万屋(よろずや)”に!」をモットーに、日常生活における本との付き合い方を創案する本連載Vol.2は、そんな謎だらけの「一巻書房」の真意をご紹介します。

一巻、一巻、一巻…

まずは彼の本棚を少し覗いてみましょうかね。

うん、確かに一巻だらけですね。
では、そもそもなぜこんなプロジェクトを始めたのだろうか。

きっかけは、サウンドアーティストの藤本由紀夫さんが、“音楽は最初の1秒でだいたいわかる”といったような発言をされているのを聞いて。それで、“じゃあ、マンガも一巻だけ読んで分ったことにしよう“かと思っだんです。別に外向けに何かを発表するといったものでもなく、軽い気持ちで買い始めました。

と岩淵さん。

その数は、やり始めて2年経った現在500冊以上。
その何冊かをTumblrで写真とコメント付きで公開し始めたら、何人からから「面白い!」と反応があったという。そのいくつかを以下に紹介しよう。

井上雄彦『リアル』1巻読了。いろいろ上手いのはよくわかる……という前提に立ってもなお「『リアル』とかマジすかwww」みたいな脆弱極まりないツッコミを入れたくなる自分が痛い。北島康介と同じタイプの踏み絵。コマが大きくなると一瞬音が消える感じがする。

きら『シンクロオンチ!』1巻読了。もっちゃり女子のエロくない体型描写がすばらしい。コマの9割が人物中心で描かれるせいか、バブル時代のTVドラマを見てるような気分になる。ちなみに作者は同じ1973年生まれ。

佐々木倫子『おたんこナース』1巻読了。いま読むと岡崎京子とか初期のばななの裏側(というか表側?)の感じ。BGMはオザケン「LIFE」あたり。でも実写化は「動物〜」の一件があるから許しません! やるならひねらずオー!マイキーで。

それで、読み終えた後、マンガはどうしているんだろうか。

必ず自作の書印を押してます。興味のありそうな友人にあげたり、立ち寄った喫茶店にこっそり置いて帰ったり(笑)。

と。

なるほど。行為そのものの内容はわかったけど、でもやっぱりその真意は未だわからず。

もうちょっと突っ込んで色々聞いてみると彼の口から、「これは僕なりの本に対する批評のあり方なんです」という言葉が飛び出してきた。

“批評”。そこもうちょっと、教えてください。

“批評のフォーマット”から作り上げる行為

まず彼がここ数年関心を向け続けているのが“批評”という行為だ。

彼はマンガに限らず、音楽や美術やアニメや映画など幅広くつまみ食いしつつ、それらを身近な人たちと酒を飲みながら語り合ったりすることを長年続けて来た。そして、その行為を仲間内だけでなく、より公の場(例えば不特定多数の人がみられるブログなどの媒体やトークイベントなど)で言葉にしていく過程で、以下のように考え始めたのだ。

“批評”っていう行為をする上で、“ある対象ジャンルのあれやこれやを一通り見ていること、つまり、数をこなしていること”ってどっか前提にあるじゃないですか。例えば、マンガひとつとってもちょっと発言すると、“その作品について語るんだったら、もちろんあの作品読んでるよね!?”とか、“同じ作家の作品は一通り読んでるよね!?的な。もちろんたくさん読んでいるからこそ言えることもたくさんあるとは思うんだけど、でも“全部読んでるやつ=一番偉い”って考え方そのものに対して、ちょっと抗ってみたいって思ったんですよ。

そこで、彼が考案したのは、批評をする上での自分なりポジショニングだ。

知識で勝負を挑まれる前に、その対象を語る“批評のフォーマット”そのものから、勝手に作ってしまおうと思ったんです。それをマンガで始めたのが、“そもそも一巻しか読みません”というスタイル。その読み方をでっち上げて、だからこそ生まれる文脈でもって、マンガを語っていこうと考えました。

始めてみたら実際に色々反応があり、“一巻しか読まない人”として意見を求められることが増えたらしい。

“何が面白かったですか?”って聞かれて教えたら、なぜかその人がそのマンガの二巻以降を買い足すことに火をつけてしまったりということがありました。あと一巻だけだと読まず嫌いが無くなるんですよね。どんなに面白くないマンガでも一巻だけだと思えば辛抱できる(笑)。

確かに今更「ジャンプコミックス全巻読んだ?」とか言われてもムリムリムリ…。

その時に前述した藤本由紀夫氏の「音楽一秒わかる論」を勝手に援用して、一巻だけを繋ぎ合わせる文脈上だからこそ見えてくる、マンガの新風景が生まれれば、これは確かにとってもクリエイティブな“批評”なのではなかろうか。

読み方を発明するサイクルへ

さて、一巻だけひたすら読み続けるこの活動だが、岩淵さん曰く、

最近は一巻すら全部読まなくなってます。一頁だけ読むとか…(笑)。例えば、メルモちゃんの一巻の一頁がほんとにやばいんです。初っ端から、おかんがトラックに轢かれるんですよ(笑)。

うーん。確かにメルモちゃんすごすぎ…。そして、もはや「一頁書房」になる気配すらみせているとは。最後に、この活動の今後の希望を聞かせてもらった。

新しいマンガとので出会いのきっかけを、色んな人たちに作れたことは嬉しいですよね。また、いつか、町の古本屋で“一巻書房”の書印が押されている本が見つかって、それをまた買う人ができて、といった循環が生まれれば嬉しいですね。

一見くだらなさそうな取り組みから、色々なバリエーションの“批評”が連鎖していく可能性。マンガだけに限らず、様々なジャンルの書籍でも、「そんな読み方があったのか!!」という発明に、これからもどんどん立ち会ってきたいと思った次第です。

(次回につづく)

※この連載と並行したイベントを、実際に大阪のスタンダードブックストアで行います。ふるってご参加ください。

スタンダードブックストア×マガジン航 presents
「本屋でこんな妄想は実現可能か!?」トーク&ワークショップ

日時:2013年3月23日 open 11:15 start 12:00
出演:仲俣暁生×アサダワタル×中川和彦
会場:スタンダードブックストア 心斎橋 BFカフェ
※詳細はスタンダードブックストアのサイトをご覧ください。

執筆者紹介

アサダワタル
日常編集家/作家、ミュージシャン、プロジェクトディレクター、大学講師。著書に『住み開き 家から始めるコミュニティ』(筑摩書房)、『コミュニティ難民のススメ 表現と仕事のハザマに』(木楽舎)など。サウンドメディアプロジェクト「SjQ(++)」メンバーとしてHEADZからのリリースや、アルスエレクトロニカ2013デジタルミュージック部門準グランプリ受賞。2015年11月末に新著『表現のたね』(モ*クシュラ)と10年ぶりのソロCD『歌景、記譜、大和川レコード』(路地と暮らし社)をリリース予定。京都精華大学非常勤講師。http://kotoami.org
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