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2年目を迎えたGALAPAGOSの現状と展望

2010年末に国産電子書籍サービスとして鳴り物入りで登場したシャープの「GALAPAGOS」。しかし、2011年9月にはそれまでラインナップされていた大小2種の専用端末の販売終了を発表。「電子書籍事業から撤退するのでは」という観測も流れた。

現在は、 Android 3.2を搭載したメディアタブレットGALAPAGOS 2機種に加え、他の Android端末向けにGALAPAGOSアプリを提供しており、シャープ製以外のスマートフォン・タブレット端末でも電子書籍サービスを利用することが可能だ。ここに至るまでには、専用端末のAndroid OS化(汎用化)、コンテンツ調達を目的としたCCCとの提携を解消するなど、紆余曲折を経ている。

2年目を迎えたGALAPAGOSはどこに向かおうとしているのだろうか? 担当者である通信システム事業本部ネットワークサービス事業推進センターの辰巳剛司氏(同センター所長)、松本融氏(コンテンツ・サービス推進室長)、片山三千太氏(事業企画室長)に話をうかがった。

タイトル数は現在約5万6000点

――まずGALAPAGOSの現状について教えてください。

松本 垂直統合(専用端末と専用サービス)からスタートしたGALAPAGOSですが、2011年3月に当社製スマートフォン、6月に他社様製スマートフォンに対応しました。ネットワークサービスをやっていく以上、母数が非常に大事になりますので、シャープの端末だけにとどまらず、あらゆる端末にサービスをしていこうという考え方に則り、アプリを他社製スマートフォンにも対応、Androidのバージョン2.3から3.2も含め世の中に出ている多くのAndroid端末で動作します(動作確認機種はGoogle playに随時記載)。

またフォーマットについては、サービス開始の際はシャープがこれまで手がけていたXMDFが中心でしたが、ドットブック形式にも対応し、ストアに関してはオープンな考え方でコンテンツを展開しています。

GALAPAGOS STOREのトップ画面。

――コンテンツ面でもこれまでの電子書籍に留まらず、生活情報サービスを標榜されていますね?

松本 はい、もともと電子書籍のサービスを軸に、コンテンツ数を伸ばしているのですが、当初からめざしていたように、関連する動画・音楽・ゲームを含めて生活にかかわるコンテンツサービスも集めています。お客様にさまざまなネットワークサービスを提供していこう、というのが基本的な考え方です。

サービスイン時には、総コンテンツ数2万からスタートし、現状(2012年3月30日現在)では約56,000です。うち新聞が8紙、雑誌が約400誌(のべ約2,900点)、書籍は約39,000点、コミックは約15,000点です。また辞書・事典は33点を揃えています。総合電子ブックストアといった位置づけで、幅広いコンテンツを扱うことができていると自負しています。

GALAPAGOS STOREの特長は、プッシュ型による自動定期配信の仕組みです。新刊の紹介だけでなく、新聞・雑誌の定期購読にもいち早く対応しています。これについては、バックエンドのオーサリングツールから配信・流通システムまでを版元に提供するといった態勢で取り組んできました。

スマホとタブレットでことなる利用者層

――GALAPAGOS STOREの利用状況はどうなっているのでしょう?

松本 まずスマートフォンとタブレットで年齢層がずいぶん異なります。タブレットは40代、次に50代にピークがあります。ビジネスパーソン、とくに男性が中心です。これらの年齢層は本をよく買われる方々です。それに対してスマートフォンは通常、20代にピークが来るのですが、GALAPAGOS  STOREユーザー様の場合、電子書籍に興味のある層ということで、年齢が高い方にもう少し寄ってます。30〜40代が、今の私どものストアに来てくださるお客様の中心です。

――これはGALAPAGOS専用機だけでなく、DoCoMoから発売されているGALAPAGOSのブランドを冠さない端末(SH-07C)も含めて、ということですね?

松本 そうですね。Androidマーケット(現在はGoogle Playに改称)にてGALAPAGOSアプリを無料で配付していますので、それをAndroidのスマートフォンやタブレットで使って頂いている方々が対象です。タブレットはGALAPAOGOSブランドの端末が主ですが、スマートフォンはシャープ製に限らず他社製のスマートフォンも多数含まれます。このように現在の利用者は比較的、高年齢層かつ男性中心です。これは意図的に男性ビジネスパーソン、かつITリテラシーの高い人達を対象に、コンテンツのアグリゲーション(調達)を行った影響もあると思います。

しかし、この冬商戦からだんだんとスマートフォンで女性層が伸びてきています。コミックや雑誌も含めて、女性を意識したコンテンツのアグリゲーションにも取り組んでいるところです。タブレットから端末の提供をスタートしたにも関わらず、いまは4分の3ほどがスマートフォンのお客様という状況です。

――いわゆる「スマホシフト」がここにも現れているわけですね。

松本 はい。実際、シャープ製のスマホを使うお客様が、GALAPAGOS STOREにけっこう来てくださいます。本の売れ筋がタブレットとスマートフォンで傾向が異なるのも興味深いところです。スマートフォンではライトノベルの人気が顕著ですね。スマートフォンのお客様は、どちらかというと「重い」コンテンツよりも「軽い、カジュアルな」コンテンツを気軽に購入いただいています。逆にメディアタブレットのほうは、40代、50代のビジネスパーソンがまじめな本、小説、ビジネス書を中心に読んでいらっしゃいます。

もう一つの特徴は「懐かしの名作」が人気コミックの中心というところですね。「1巻無料キャンペーン」を行うと続巻買いをしてくださるお客様が多く、例えば『サラリーマン金太郎』などは、新巻が投入されるとボーンと売上が伸びます。そのように続巻が出れば出るほど、売上が伸びていくというかたちになってきましたので、だんだん「書店」としては、売上を作りやすい状況にはなってきました。

雑誌では、よりはっきりとお客様の趣味嗜好が反映されています。特徴的なのは「週刊ダイヤモンドDigital」で、誌面を単に画像データとして電子化したものではなく、GALAPAGOS用にXMDF3.0でオーサリングされています。リフロー(画面の表示状態に応じて組版が自動的に変化する)にも対応しており、画面での読みやすさが評価され、販売も好調です。

全体の傾向としては、「Flash」「DIME」のような駅売りで売れる雑誌のコンテンツがいくつか入っており、そこにビジネス誌がミックスされている状況です。また「日経コンピュータ」など、IT系の雑誌でスマートフォンやタブレットが特集されると、その号は売上が伸びるのも特徴的です。

――2012年頭に、GALAPAGOSのTwitter公式アカウントが、「紙の本よりもお買い得」と、いくつかの作品をアナウンスしたのも印象的でした。

松本 紙の本に配慮しながら、というところもありますが、出版社から特別価格を前面に出してOKして頂いた作品は、プロモーションすると確実に反響があります。ただし、それが価格に対しての反響なのか、単純にプロモーション(露出)に対しての反響なのかは、判断が付きにくいところではあります。本を買う習慣のある固定客――いわゆる「本好き」の方々は、価格だけではあまり動かないのではないでしょうか。

――専用端末だけでなく、スマホ・タブレットの両方に対して、無料アプリを提供し、ライトユーザーとヘビーユーザー両方を抱えているのが、GALAPAGOSの特徴という理解でよいでしょうか?

松本 はい、そうです。

――そのように展開を行うと、同じ端末上で他の電子書籍アプリも同居が可能になります。当初の垂直統合=顧客の囲い込みができないという点については、対策はあるのでしょうか?

動画や音楽などに関する 「おすすめ情報」を定期配信。

松本 もともと囲い込んで勝とうという考え方ではありませんでした。専用端末を出した時にも、汎用機にもアプリを出してサービスの利用者層を拡げて行くことは表明していました。お客様を引きつけるのは(垂直統合や囲い込みではなく)、コンテンツのラインナップやユーザーインターフェイスを含めて、サービス自体がお客様に満足いただけるか、というところしかないと思うんですね。

サービスの差別化の一つは、「定期購読・おすすめ配信」と呼んでいる、新刊がでたらこんな本が出たよと定期的にお薦めするプッシュ配信です。

「コネクトゲート」という、書籍以外のさまざまな生活導線のサービスを始めたのも、GALAPAGOSのアプリケーションを立ち上げれば、書籍との出会いもあるし、そのほかの関連サービスとの出会いもあるというようなかたちで拡げていこう、という取り組みの一環です。

「アプリケーションを立ち上げていただく機会をどれだけ増やせるか」が、今後の電子書籍、サービスの差別化・勝負のポイントになってくると考えています。生活サイクルのなかで、私どものサービスにどれだけ触れていただける回数や時間を伸ばしていくかというところが、鍵を握るはずです。

CCCとの提携解消の影響

――昨年CCCとの提携を解消されましたが、コンテンツ調達について懸念はないのでしょうか。メーカーの方々がコンテンツの調達を行うのは大変ではないですか?

松本 正直に言えば大変ですが、10年以上前、ザウルス文庫というXMDF形式での書店を立ち上げたときから、コンテンツの直接調達を行ってきました。人の入れ替わりはありますが、つねに出版社さんとの関係は築いてきており、GALAPAGOSになったからと言って、とくにいままでと変わったことをやっているという意識はありません。

――CCCとの提携解消も負のインパクトはない、という理解でよいでしょうか?

片山 そうですね。提携解消に向けて、事業継続性の面からも考えるなかで、それでも大丈夫ということで進めましたので。

――もう少し突っ込んでお尋ねしたいと思います。当初の目論見が果たせなかったことがCCCとの提携解消の理由と理解していますが、提携に期待されていたものは何だったのでしょうか?

辰巳  目論見が果たせなかったということではありません。 ザウルス文庫では、「製品のためのサービス」という観点での取り組みが多かったのに対して、特定の製品に縛られないオープンなサービスとしてGALAPAGOSに取り組む際、とくにBtoCと言われる分野での、私どもには不足しているノウハウが必要だと考えました。CCCさんは書店でのリアルな書籍とネットを通じてさまざまなコンテンツをお客様に届ける点でかなりのノウハウをお持ちだったので、いろんな知恵を拝借して一緒に伸ばしていきましょうということで、提携に至りました。約1年間の協業を通じて、一定の成果を得ることができたことから、いままで培ったお互いのノウハウは共有しつつ、今後は別々に進めてまいりましょうということで、平和裏に提携を解消しました。

既存機種の販売終了の発表の後でしたので、世間にネガティブに受け止められたのは残念ですが、提携について今も感謝しています。今後は、テレビや生活家電などとの連携を図ると共に、生活に役立つ幅広いサービスを強化していきます。

――なるほど。とはいえ、日本でのサービスもまもなく開始と目されるKindleのことも考えると、書籍は10万単位のラインナップが揃わなければならないと思います。そこまでどのように到達していこうというお考えですか?

松本 さまざまな要因があり、一言ではなかなか申し上げ辛いところはあります。当初はGALAPAGOSという専用端末を拡販し、その母数を伸ばしていくことで、コンテンツの調達を伸ばしていこうと考えていましたが、ハードウエア主導では動かなかった。これは事実です。

そこで、いまは実際に電子書籍を楽しんでいただくお客様を増やしていく方向性を追求しています。各出版社さんも、コンテンツのデジタル化のための人員配置等、仕組み作りが進んでおり、低コストで早くデジタル化する体制ができつつあるため、コンテンツ数は着実に増えていくと思います。出版社さんからは、コストをかけて電子化したコンテンツをGALAPAGOS STOREだけで売るのではなく、販路を拡げたいというお声も多くお聞きします。

――EPUB3への対応も考えていますか?

辰巳 電子書籍ストアとして、対応フォーマットを増やすことで、お客様にご提供できるコンテンツが増やせるのあれば、もちろん対応します。EPUB3も、市場全体として、いかに電子書籍コンテンツを増やせるかという課題に対する一つの方向性と理解していますが、当社が貢献できることとして、逆にXMDF3.0など当社のビューワをライセンスすることで、他の電子書店でも、私どものソリューションを使っていただけるような環境を構築したいと考えています。

松本 私どもの取り組みにはコンシューマー向けに行っているGALAPAGOS STORE事業というB2Cの側面と、出版社向けに、ツールやビジネスの仕組みをご提供するB2Bの側面とがあります。いま辰巳からお話したのは、出版社だけではなくて、他社様のストア向けに、電子コンテンツビューワーというソリューションをご提供するというアプローチです。

――なるほど。そうすることで、品揃えを互いに融通し合い拡充していく、というわけですね。

「オール・シャープ」の要としてのGALAPAGOS

――GALAPAGOSの強みは当初、三つあったと思います。一つはフォーマットが次世代のXMDFであったこと。もう一つは、液晶をはじめとするハードウエアが優れていたという点。そして定期購読などのサービスです。アプリ化したことによって、他社の端末ユーザーはハードウエアによる優位点を得ることはできませんので、その存在感は小さくなったのではないかと思います。

XMDFのフォーマットの優位点も、ラインナップを揃えて販売機会を高めるためには、そこばかりにもこだわってはいられない。そうすると残りは定期購読の仕組みやサービスの充実度合いということになりますが、そういう理解でよろしいですか?

松本 そうですね。

――素朴な疑問としてメーカーの一事業としての存在意義や、他の事業とのシナジーがどこにあるのかという点が気になります。

辰巳 必ずしも一つの側面だけで話ができるわけではないとは思いますが、私どもが得意とする「ハード」、そのハードを売るための「サービス」、サービスを提供するための「コンテンツ」、この三つがスパイラルに展開することで、 お客様に価値を提供できると考えています。

これらが一つの方向に偏ってしまったり、クローズドな世界に入ってしまいますと、お客様にその意図が見えた瞬間に嫌われてしまう。逆に私どもが今やっていることが、裾野を拡げている、あるいは安心して利用して頂けるための取り組みであれば、シャープ全体としてもシナジーが上がっていくというふうにみています。

シャープの端末を買えば、あるいはシャープのサービスを使っていれば、永続的に活用いただけるという安心感に繋げてきたいと考えています。GALAPAGOSは一度始めた事業ですし、ザウルスも含めると電子書籍は過去10年間ずっとやってきた事業なので、確実に守り育てることが「オール・シャープ」に繋がると考えています。

――「オール・シャープ」とは?

辰巳 安心感を醸成することができれば、私どものいろいろな商品への支持につながっていくということですね。

――つまり「垂直統合・クローズドな世界」とは、考え方としてはまったく逆であると。

辰巳 逆ですね。

松本 私も商品企画をやってきて、ハードからの発想でいろいろ仕事をしてきましたが、 今の時代はハードだけではお客様の期待に充分に応えられるような商品にできないわけです。ネットとかクラウドの時代になってくると、「ものづくり」だけでは充分にお客様に価値を提供できない。OSメーカーからOSの提供を受けて、必要なアプリケーションを組み合わせて提供するだけでは、シャープならではのお客様への提案力が、どんどん下がっていってしまう。これはシャープに限らずたぶん、いろいろなところで起こっていることだと感じています。

そうしたなかで、お客様に100%の満足度を提供しようと思うと、ハードだけでは無理です。コンテンツサービス、つまり「お客様が商品を買ってから、その画面に映し出すものまで、責任を持ってご提案申し上げる」という環境をつくっていくことが、ものすごく大事だと思うんですね。

過去、商品企画をする上でいちばん困ったのは、利用者の声をダイレクトに聞けないということでした。メーカーは販売会社に商品を卸し、販売会社から量販店に卸し……という段階を踏みますので、実はメーカーは利用者との距離が遠い。

今、私どもがやっている仕事は、ネットワークを通じてダイレクトに利用者に接しているので、例えば売れ筋のコンテンツはもちろん、お客様が何時にストアに来てくださるかとか、そういったこともつかめるわけです。

利用者の生活のニーズや生活感をとらえることによって、サービスの改善にもつながりますし、それをハードにどうフィードバックしていけばいいのかも分かる。将来的にサービスが大きくなり、ハードのビジネスも自前で持っていれば相乗効果を生み、それを強みとして打ち出せるはずです。

Amazonさんは、まずサービスのほうからお客様の心をとらえて、そこに手段として、ハード(Kindle)を提供している。Appleさんはまず優れたハードがあって、そこにPC向けのiTunesのようなソフトも含めて提供するという順番になっている。つまり順番が違うだけだと思うんです。

――サービスのレイヤーを押さえ、顧客の導線や行動履歴も含めて、自社で持っていることが重要である、と?

松本 ええ、お客様のニーズにどこまでリーチできるかだと思うんですね。

ユーザーの行動履歴をマーケティングに活かす

辰巳 購買行動を見ていると如実にいろいろなことが分かります。私どもが意図したシナリオが、まったく実情に反映されない、あるいは、意図したのとは別なところに反応が現れることもあります。それはそのまま開発にフィードバックできます。

自社製の端末だけが対象ではありませんが、アプリを通じて、バリューチェーンの最初から最後まで揃っているのは、非常に大きな利点です。なおかつそれをクローズドなものだけにしないことが、電子出版書業界の発展に向けて、私どもが支援していける態勢ではないかと自負しています。

――そこでは、これまでのハードウエアの技術とは相当異なったスキルが求められます。たとえばその一つとしてデータマイニングの技術が必要ですが、そういったリソースも確保されているのでしょうか?

辰巳 はい。これまでの技術リソースはハード・端末のエンジニアが多かったのですが、「写メール」がヒットしたあたりから、端末とシステムが連携したものにも取り組んでいます。そこからの長い積み上げがあって、今このシステム運用に取り組みはじめた、という流れです。

――Amazonは徹底的にデータマイニングを行っていることで知られています。全面的に対抗するとは言わないまでも、どのぐらいの規模感・本気度合いで取り組まれるのかが気になります。

辰巳 本気度合いを聞かれると、「本気です」としか答えようがありません(笑)。シャープの中ですべての情報を収集して解析するのは、非常にむずかしい。ただ、全部が全部、取らなきゃいけない情報かというと、決してそうではありません。私どもの思い描いている線にそって必要な情報だけを効率的にやっていければよいと考えています。

――Amazonには巨大な購買履歴のデータベースがあり、そこからアルゴリズムに沿って、利用者のニーズに合った特定の商品をリコメンドしています。他方、国内の電子書店を見ると、まだ品揃えが多くないこともあり、その域まで達していないと感じることもあります。このあたりの仕組みの構築に対しては、どのように考えているのでしょうか?

辰巳 アルゴリズムにもいろいろあると思いますが、基本的にはバランスの問題です。まずは私どものコンセプトとして「出会い」があります。コンテンツとの出会いにどんな演出が効果的かをつねに考えています。たとえば旬なものに気付いてもらうのも重要な切り口ですし、完全にアルゴリズムによって、スコアの高いものを出していくのも、一つの解かもしれません。あるいは書店として、こういうコンセプトで売り場づくりをしたいから、それを告知していくという考え方もあります。

すべてがすべて自動化していこう、という話ではないと思うんです。このアルゴリズムがあるから、店舗づくりができる、ということもある。Amazonさんのような完全な行動履歴型や、Googleさんのような追尾型とは別の方向性をめざしていきたいですね。

――ソフトバンクの「ビューン」で、閲読履歴の情報が収集されていたことが問題視された事件がありました。GALAPAGOSではそこまでの情報収集は行っていない、という理解でよいでしょうか?

辰巳 はい、やっておりません。決済に必要な通常の購買情報のみを取得しています。

松本 データマイニング自体が目的ではなく、お客様に本との出会いを提供するのが目的なので、アメリカのIT企業がやっているのとは、ちょっと違うアプローチのほうが大事だと思っています。つまり、私たちは真摯に「本屋さん」をやろうと思っているんです。

紀伊國屋さんや丸善さんをはじめ、本屋では書店員さんの力がとても大事じゃないですか。それと同じように、人が勘や手作業でやっていることがすごく大事で、過剰なデータマイニングは不要だと考えています。コンテンツのラインナップの中から、きちんとおすすめをするところにフォーカスした仕事をやっていくことが、結局はお客さんのためになり、私どもとしても、ノウハウの蓄積になってくるはずです。

辰巳 CCCさんに関わって頂いたのも、まさにそうしたアナログ的な知見を得たかったというのが大きいですね。

松本 そういう意味で今、ものすごく欲しいのが書評ですね。コンテンツを入手していただくだけじゃなくて、この本はこういう思いでつくられているんだ、こういう人に読んで欲しいんだ、といった送り手の思いが伝われば、販促ツールとしても有効だと思います。

生活情報を重視する理由

――今後は書籍だけでなく、生活情報も充実させるということですが、現状では、例えばアニメ配信ならばバンダイチャンネルや、ソーシャルゲームのグリーに対してリンクを張る、というかたちになっています。それらのサービスを利用するには、いったんGALAPAGOSを離れなければなりません。そういう建て付けになっているのはなぜでしょうか?

片山 電子書籍以外のサービスを用意することで、GALAPAGOSのアプリを立ち上げてもらう機会を増やしたい、という狙いがありました。今は外部のサービスへ送客をするかたちでの連携ですが、 送客をきっかけに、より良いユーザー体験の提供に向けた様々なアイディアが出せればと思っています。先ほどコンセプトとして紹介した「出会い」を重視し、よりよい体験をしていただくための入り口として、いまはそのかたちを選んでいます。

Appleのような垂直統合の世界では、例えばiTunesを使うときに音声のフォーマットが何であるかを利用者がいちいち意識する必要はありません。一方、オープンなAndroidでは、使えるフォーマットが多岐にわたり、どれが標準的なフォーマットか分からず、迷ってしまうのが現状です。

GALAPAGOSの利用者には、ここに行けばこれだけ潤沢なものがありますよとか、ここに行けばより良い体験をしていただけます、というところを伝えていきたい。そのために私どもが一から百まで全部揃えるのか、これまですぐれたユーザー体験を積み上げられてきた外部のパートナーと一緒にやるのがいいのかといえば、まずは後者だと考えました。私どもがパートナーから学べることも多いはずです。

――今回の生活情報を充実させるストアのアップデート後に、アプリの起動率が上がったような効果は認められましたか?

片山 アプリの起動回数は増えています。また、実際にアプリの画面上で滞留していただいている時間も増えているものと推測しています。ユーザー数の伸びについても、電子書籍以外のものにも関心を持って、GALAPAGOS STOREを見に来る方が増えているという実感があります。

――アプリ起動前に、利用者に更新情報を送り届ける手段はどのように用意していますか?

片山 メールマガジンを配信しています。またコネクトゲートでは、おすすめ配信が定期的にプッシュされますので、アプリを起動していただいている方であれば、その場でわかります。本棚に更新情報が並んでいくのです。

松本 バンダイチャンネル様やレーベルゲート様とは、GALAPAGOS STOREの書籍と、動画作品、映像化の際の主題歌などを一緒におススメとしてお客様に紹介させて頂いています。例えばアニメ「剣風伝奇ベルセルク」の紹介画面は、私どもがXMDFで用意し、そこに電子書店でのコミックの展開も紹介してあります。そのようにしてコンテンツとの出会いを演出しているわけです。

辰巳 アプリを前面に表示していなくても、「コンテンツ受信」というマークがステータスバーに現れますので、それで更新情報がわかります。

――そういった更新情報やおすすめ情報はユーザーごとにカスタマイズされているのでしょうか?

辰巳 今は一斉送信で、カスタマイズはされていません。ただ今後、購入情報が増えていけば、最適なコンテンツが抽出されるシステムを用意する予定です。

Kindle日本上陸後の戦略

――いよいよ日本でのサービス開始が近いとされるKindleですが、AndroidをベースとしたKindle FireとGALAPAGOSは見た目もとても似ています。シャープはKindle日本上陸後の戦略をどのように描いているのでしょうか?

辰巳 全面的に真っ向から、Kindle Fireと同じようなビジネスモデルにすることは考えていません。私どもの戦略は、今回ご説明した考え方の延長線上と考えています。利用者の裾野を拡げ、さまざまなサービス提供者とも連携し、それらの体験を通じて、GALAPAGOSのアプリをご利用頂ける機会を増やしていくしかありません。これからどんどんサービスとアプリの両面で施策を打っていきますので、期待していただきたいと思います。

――Kindleにおける料率(ロイヤリティ)の設定がAmazonに有利なのではないか、という批判もありました。

松本  他社様のことはわからないのでお答えできません。私どもは、 出版社・取次など書籍に関わる方々が、共存共栄できる環境を作っていくのが基本だと思っています。それがない限り、お客様に対して適正なコンテンツが届けられなくなります。事業として10年、20年続けていくということが大事なんです。流通過程の中で、誰かが1人勝ちするような仕組みでは、長続きする事業として成り立たないと思いますし、 結局はお客様の不利益になるからです。

――シャープさんのほうから、出版社に対して、ディスカウントとか、キャンペーンの提案をされることはあるのでしょうか? この点は新古書店に対する電子書店の存在意義という点からも重要だと考えています。

松本 それは常にやっています。新刊と同時に電子書籍になるのがいちばん望ましいですね。キャンペーン的な取り組みを矢継ぎ早にやっていくことが重要ですので、毎日、毎週のようにチームが提案活動をさせていただいています。

――最後に、これからのGALAPAGOSについてお考えを聞かせてください。

辰巳 GALAPAGOSに限らず、これまで電子書籍をめぐる動きでは、機会損失を起こす要因が、出版社・電子書籍サービスの双方にあったと反省しています。私どもも、当初XMDFへのこだわりから自社のドメインに取り組みが偏っていたために、フォーマットが壁となり、コンテンツが揃わないという機会損失が起こりました。

その反省を踏まえて、昨年から、オーサリングツールの無償提供を始めています。そうすることが結果的に電子書籍全体の裾野を拡げることにつながるはずです。Amazonも含めて、電子書籍の世界に変化が訪れると、それに関わる皆の意識が変わってくると思いますし、ユーザーの行動パターンも変わってくると思っています。

――ありがとうございました。


垂直統合的な国産電子書籍プラットフォームとしてスタートしたGALAPAGOSだが、現在、水平展開を模索していることがインタビューからもよくわかった。

AppleやAmazonに比べると、その歩みは決して平坦ではないが、シャープのみならず、ビジネスモデルの変化への対応を迫れられている日本の家電メーカーの抱える課題への果敢なチャレンジとも言えるだろう。日本版Kindle登場後は、いよいよ電子書籍ビジネスが本格化すると目される中、シャープの次の一手がどんなものになるのか注目していく必要があるはずだ。

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執筆者紹介

まつもとあつし
ジャーナリスト/コンテンツプロデューサー。ITベンチャー・出版社・広告代理店などを経て、現在フリーランスのジャーナリスト・コンテンツプロデューサー。ASCII.JP、ITmedia、ダ・ヴィンチ、毎日新聞経済プレミアなどに寄稿、連載を持つ。著書に『知的生産の技術とセンス』(マイナビ/@mehoriとの共著)、『ソーシャルゲームのすごい仕組み』(アスキー新書)など多数。取材・執筆と並行して東京大学大学院博士課程でコンテンツやメディアの学際研究を進める。http://atsushi-matsumoto.jp
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