2010年、電子書籍元年と世間は大きく騒ぎましたが、その内容はAppleのiPadをきっかけに、AmazonやGoogle、もちろんAppleといった、主にアメリカの電子書籍の興隆を受けて、日本にもまた電子書籍の時代が来るのではないかとい う、IT系企業を頂点とした上からのムーブメントでした。
実際に蓋を開けてみれば、騒ぎの元となった各アメリカ系企業の日本での電子書籍に関する活動はほとんどなく、熱に浮かれたように出版界、印刷界といった関連業界が踊っていた、そんな1年であったように思います。
2010年の電子書籍に関する実質的な評価としては、プラットフォームが幾つも立ちあがることで電子書籍への関心が業界外へも(多少は)拡がったこと、業界全体が「動かなければならないのではないか」という関心をもったこと、そして実は、既にパーソナルな出版が可能になったという、揺るがしがたい事実であるかもしれません。
そして迎えた2011年3月11日。年明けからなんとなく静かになっていた電子書籍周りですが、今度は出版界・印刷界自体が揺すぶられることになりました。
東北には多くの製紙工場が存在していますが、その多くが東日本大震災で被災し、2011年5月現在、ほとんどの工場は運転を再開できるようにはなっていません。東京湾の有明付近に多く存在した用紙倉庫も、その内部で大きな荷崩れを起したり、建物の底面が液状化を起し、出荷に制限がかかりました。
印刷に使用するインキもまた、その原材料を扱っていた業者が被災したことで、供給に障害が発生しています。ペットボトルの原料が不足しているのと同様、書籍のカバーなどに使用するポリプロピレンのシートもまた、供給難となっています。
このような状況下で、出版社は雑誌等の出版制限をはじめました。今後、用紙の在庫が薄くなって来るであろう初夏〜夏にかけては、新刊の書籍、重版なども、影響をうけることが予想されます。
出版社にとって、出版点数を絞らざるをえない状況は、社業に直接関わる大変な出来事でありますが、同時に出版社が執筆を依頼していた執筆陣にとっては、その多くが自由業であることを考えても分かるように、喫緊の大問題なのです。
まず影響を受けるであろうエンターテイメント系の作家、同ライターの抱える不安は並大抵のものではありません。個々何年も出版不況とされて、以前であれば単行本として出版されたであろう様な企画もなかなか通らなくなっていたところへの震災の打撃は、大きすぎる不安を与えるものでした。
ボトムアップの電子書籍元年となる可能性
さて、そこで改めて、昨年の電子書籍元年という狂騒を振り返れば、今年こそが、実質的な元年になるのではないか、と思われるのです。従来の出版のラインがだんだんと硬直して働かなくなってきている中、実は電子出版は、クリエイターたちにとって、新しい可能性たりうるのではないか。
旧来のチャンネルが狭まるならば、新しいチャンネルを、今であれば開拓しつくる上げるチャンスがある。今年は、上からのムーブメントでなく、各クリエイターが持ち上げていく、ボトムアップの電子書籍元年となる可能性があるのではないか。
となれば、印刷会社もまた、紙にインキを定着させるという意味では明らかに仕事がなくなってきであろう今、その原点に立ち返り、情報加工産業の雄としての立場を再確認し、何事かをなしていかなければならない、そういう側面も見えてきているのではないか。外資系のプラットフォーム、IT系のプラットフォームが次々と立ち現れる今、単なる情報変換業者の立ち位置に追い込まれる前に、なにか新しいチャンネルを開くことを模索できないか。
「湘南電書鼎談」はそのような状況の中から、電子書籍に関心を持つライター、印刷屋が集まって語りあい、未来を探り合う場として企画されました。構成メンバーのうちふたり、@tekigiと@arithが三浦半島に住まいを持ち、最初の鼎談を鎌倉で行おうと企画したことで、湘南と冠するようになりましたが、それ以上に湘南に深い意味はありません。しいて言えば、東京の中央集権的なあり方から、湘南の、個人が中心になった自由な雰囲気へのシフトを、空気としてまとっているというようなことでしょうか。
今後回数を重ね、議論を深めていくのか、あるいは異なる形へ変化、進化してさらに進化・深化していくのか。さきのことは見えませんが、まずは一歩、踏み出してみたいと思います。
第1回湘南電書鼎談@鎌倉
日時:2011年5月13日(金)17時30分〜(19:00頃まで予定)
場所:どんぶりカフェBowls鎌倉本店(当日現地での視聴は基本的に募りません。Ustreamにてご覧ください。録画もあるよ!)
放送:Ustreamによる完全中継 http://ustream.tv/channel/shonandensho/
Twitter公式アカウント:http://twitter.com/shonandensho
公式サイト:http://shonandensho.posterous.com/
執筆者紹介
- (印刷会社勤務)
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