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全国図書館大会U40プレミアセッション

2009年10月29日。平日の木曜の夜という決して条件の良い時間ではない中、日本全国12都市で図書館関係者が同時多発的に集う大イベントがあったことをご存知だろうか。イベントの名称は「全国図書館大会U40プレミアセッション」。集ったのは実に全国で330名。

一口に図書館関係者といっても図書館で働くライブラリアンだけが集ったのではない。書店や取次、出版社といった図書館が資料として収める書籍や雑誌の作り手もいれば、図書館システムや図書館用備品を収める図書館関連企業の社員もいる。図書館情報学を学ぶ学生・院生もいれば、素晴らしいことに図書館の利用者も参加者に含まれていた。開催都市は北から山形、仙台、新潟、水戸、東京、名古屋、三重、京都、大阪、岡山、福岡、沖縄の全国12都市。集ったのは、主に40歳以下の図書館関係者である。

U40とは「40歳以下」の意味。若手図書館関係者が集まった。

ちなみに会場別にみると、参加者数は、山形(12名)、仙台(17名)、新潟(8名)、水戸(10名)、東京(120名)、名古屋(30名)、三重(23名)、京都(35名)、大阪(33名)、岡山(14名)、福岡(3名)、沖縄(25名)となっている。筆者の知る限り、これほど多くの図書館関係者が一堂にではなく、全国に分散して同時に同趣旨で催しを持ったのは、これが初めてのことだ。

明るい笑顔で図書館の夢を語る

330名が強弱の差こそあれ賛同したその趣旨とは、どのようなものだろうか。一言でいえば、それは「明るい笑顔で図書館の夢を語る」こと。昨今の経済危機を待つまでもなく、図書館は様々な点で苦境に置かれている。その現状はすべてが社会的な要因に帰せるものでもなく、図書館業界がその内部に抱える課題によるところも少なくはない。そのためか、往々にして図書館関係者、特にライブラリアンからは悲嘆と愚痴にも似た否定的・悲観的、そしてときに硬直的な言葉が発されることが少なくない。

だが、この日の集まりでこうした印象は一変させられた。「明るい笑顔で図書館の夢を語る」を合い言葉に、それぞれが図書館に抱く夢や希望を壇上から語りかけ、また場内で共に語り合う光景が東京会場だけでも随所で見られた。東京会場ではライトニングトークと称する3分間のショートスピーチに10人が登壇し、未来につなげたい夢が続々と語られた。そのときの言葉一つひとつを再現するのは困難だが、語られた言葉の断片を切り出すと、「コミケ」あり、「Twitter」あり、果てには「温泉」まで飛び出した。

120名という最も多くの参加者が集った東京会場では、フィナーレが近づくと、「本の未来を握る男」として注目を集める長尾真・国立国会図書館長がサプライズゲストとして登場した。長尾館長は10分近く、図書館に抱く希望と期待を文字通り熱く語り、場内は沸きかえった。だが、このときの歓喜は単に長尾館長という有名人の来訪へのミーハー的なものではなかったように思う。

長尾館長が登場するまでの1時間半以上、120名の人間が初めて出会う人々と積極的にコミュニケーションし、自らの夢を語り、相手の夢に耳を傾けるという時間を過ごしてきたからこそ、長尾館長のメッセージが、参加者がそのとき抱えていた夢と熱気に応えるものであるかのように受け止められたのだ。だからこそ一同深い感動を覚えたのではないだろうか。

第一歩を踏み出すための勇気

ゲストは長尾館長ばかりではない。遠くアメリカに住まわれる菅谷明子さん(『未来をつくる図書館―ニューヨークからの報告』の著者)からは、事前にメッセージを頂戴した。また、未来のためにいまここでは40歳以下の若手・中堅層のネットワーク強化を図るという趣旨に賛同いただき、事務局の運営資金を寄付してくださった数十名の図書館関係者からもメッセージをいただいた。それらのメッセージは会場となったアイリッシュパブの壁面に所狭しと張り出され、参加者同士のコミュニケーションの潤滑油にもなっていた。

参加者からの多数のメッセージが会場の壁に張り出された。

大いに盛り上がり、参加者も存分に楽しめたという意味では、全国図書館大会U40プレミアセッションは大成功だったと言えるだろう。主催者の一人として、また立案者の一人として、そう自負している。だが、問題はこの次の第一歩だろう。全員手弁当で参加した30名以上の事務局スタッフと当日各地の会場の運営を助けてくれた方々の働きもあり、330名が普段の生活や仕事ではなかなか接点をつくれずにいた人々と、「図書館の夢」を軸に広く、そして深く交流できたことは事実だ。しかし、その先には何があるだろうか、いや、なにがあるべきだろうか。

おそらく全国図書館大会U40プレミア事務局は一度お開きとなるだろうが、夢を夢に終わらせないために、今度は参加者一人ひとりが自分に何ができるのかを問いかけ、動き出すことが必要だ。その第一歩を踏み出すための勇気になるのが、今回築いた人とのネットワークとなるだろう。孤立せず、連帯を求めて今回の催し同様、全国各地で同時多発的に第一歩が踏み出されれば、その日こそ、苦境にあえぐ図書館の革新が始まった記念すべき日となるはずだ。

全国図書館大会U40プレミアセッション
上記サイトでは東京のみならず、全国各地の会場の開催風景や、事務局スタッフの生の声にふれられる。

執筆者紹介

岡本 真
ヤフー株式会社でのYahoo!知恵袋の立ち上げ等を経て、1998年に創刊したメールマガジンACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)(週刊/5000部)を母体に、アカデミック・リソース・ガイド株式会社を設立。「学問を生かす社会へ」をビジョンに掲げ、文化施設の整備に関わりつつ、ウェブ業界を中心とした産官学連携に従事。著書『未来の図書館、はじめませんか?』(青弓社)『これからホームページをつくる研究者のために』(築地書館)『ウェブでの<伝わる>文章の書き方』(講談社現代新書)、共編著『ブックビジネス2.0』(実業之日本社)ほか。
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