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続・人文書の灯を絶やさないために

人文書の灯を絶やさないために」という記事で私は人文書の刊行が存続できなくなるのではないかという危機感を述べた。そうした状況の中で少しでも人文書の刊行を存続できるように、前回の記事ではPOD出版、すなわちプリント・オン・デマンドという受注生産方式を紹介した。今回はそれよりも一歩進んだ方式を紹介したい。人文書を刊行する機会を求めている人に推奨する方式である。

POD出版と先行予約販売の組み合わせ

POD出版には著者の経済的負担を軽くするという大きなメリットがある。しかし、その一方、出版社を通さないので編集や校正などのクオリティーが担保されにくいといったデメリットがある。さらに本を製作するうえで自由度が低く制約が多い。基本的に安価なペーパーバックを流通させるという方式である。またPODという印刷方式は一昔前より格段に安くなったとはいえ、オフセット印刷のような大量に刷る方式と比べると高い。

そうしたデメリットを解消しようと、私はBOOTHというサイトを使った先行予約販売を試みた。BOOTHとはさまざまな創作物の販売を仲介するサイトである。私は『ロビン・フッド原典集成』という書籍の先行予約をTwitterで募った。

Twitter広告に使用した画像

Twitterを通した書籍広告で重要なのは画像を準備することである。いったいどのような本なのか一目でわかるようにしなければならない。こうした書籍広告を採用した結果、インプレッション(ツイートを見た人の数)は約50万、販売サイト(BOOTHの特設ページ)を訪れたユーザーは約4,000人を数えた。

募集を開始してから約3週間で500部以上の先行予約を集めることができた。500部をまとめて刷ると1部当たりのコストが抑えられるうえに凝った装幀を採用することも可能である。POD出版より利益率も高い。個人出版で問題になるのが決済や配送だが、それはBOOTHの代行サービスを使うことで解決される。

配送は少数であれば自宅から発送できる。匿名配送という仕組みが利用できるので、作者も購入者も互いに住所をやり取りする必要はない。部数があまりに多い場合は倉庫に委託して配送というサービスも使える。今回は実験的な試みだったので50部程度しか先行予約が集まらないだろうと予測していた。しかし、驚くことに500冊分も予約が集まったせいですべてを自宅で梱包して総計220kgを営業所まで延々と運ぶはめになった。

500部を自宅から発送

また紙書籍の特典としてPDFデータもダウンロードできるようにした。書籍のレイアウトそのままのPDFデータに加えて、スマホで閲覧しやすいレイアウトのPDFデータも提供した。読者から非常に好評であった。

先行予約で500冊を販売した後、POD出版で一般販売を開始する。POD出版のメリットは1冊ずつ注文に応じて販売する方式なのでいつでも購入可能な点にある。先行予約で購入できなかった人にも行き渡るし、細く長く販売を続けられる。このようにPOD出版とBOOTHを使った先行予約販売を組み合わせれば、それぞれのメリットを最大限に活かせるとともにデメリットを相殺できる。

なぜこのような方式を提言するのか

出版業界の現況では、たとえどのように優れた内容の人文書であっても出版できるとは限らない。売れ行きが見込めなければ、そもそも刊行を引き受けてくれる出版が見つからず、公的資金が得られない場合、著者が費用負担を強いられることもある。そうなると、これから自分の成果を発表しようとする研究者の機会が奪われかねない。

誰にでも出版の機会を保障することが人文学の発展や民主主義の成熟に必要なことだと私は考えている。だからこそこのような新しいモデルを提唱している。そしてただ提唱するだけではなく自ら実践している。今後も最適な方法論を模索していきたい。

執筆者紹介

西川秀和
大阪大学外国語学部非常勤講師。専門領域はアメリカ大統領。アメリカ史に関する書籍(『アメリカ人の物語シリーズ』『アメリカ歴代大統領大全シリーズ』)を商業出版するかたわら、POD出版を活用して独自に歴史関係の書籍を翻訳出版。
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