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第7回 地域のクリエイティブはどこにある?

現在、京都で開催中のローカルメディアワークショップCIRCULATION KYOTOは、8月に開催された公開プレゼンテーションを終えて、本格的に各チームがメディアを制作する段階に入った(プレゼン映像が公開されているので、こちらのHPを参照のこと)。

約一ヶ月半かけて、異なるバックグラウンドを持つ参加者たちが、自らの役割とスキルを持ち寄って、非常に完成度の高いプレゼンを行った。観覧に来てくださった地域の企業や団体の方々からも概ね好評で、各プランに具体的に支援を買って出てくださるところも現れ始めた。

ワークショップはよく、アイデアを発表して終わりになることが多いけれど、こうして実現性の高いプランを目にすると、それが不可逆なうねりとなって、市民をまきこみ活動として残っていく。それは今すぐに地域の課題を解決するには役に立たないかもしれないけれど、5年後、10年後には確実にその地域に足跡を残すことになると思う。本プロジェクトでディレクターチームの僕たちは、参加者に「地域における必然性」「発想の斬新性」「運営の継続性」「資金の調達方法」という四つの高いハードルを課した。自治体予算でメディアづくりのワークショップやライター講座が各地でさかんに行われているけれど、そこでは根本的な問題、つまり「本当に、メディアをつくる必要があるのか」を考えさせられることはない。「地元情報を発信するウェブメディアをつくりたい」というだけの理由で開催されるワークショップは、「そもそもウェブメディアをつくる必要があるのか」を考える時間を与えてくれない。

カードを使ったワークショップの様子。

公開プレゼンテーションを終えて。(撮影: Kai Maetani)

メディアの「かたち」を再発明する新しいアリーナ

もし、地域の課題を解決するためにメディアが必要だとしたら? そんなことを、メディアの概念を拡張しながら、参加者と一緒になって考え続けた一ヶ月半。あらためて思うけれど、メディアというのは「情報発信媒体」としての性格にとどまるものではない。M・マクルーハンの「メディアはメッセージである」という有名な言葉を引き合いに出すまでもなく、地上波テレビや新聞などのマスメディアが衰退し、出版流通の仕組みが岐路に立たされている今、出版やメディアに携わる者は、素朴にメディアの「コンテンツ」をつくる競争に明け暮れるのではなく、メディアの「かたち」そのものを一から発明する、新しいアリーナが生まれつつあることに自覚的でなくてはならないと思う。

メッセージを内包するメディアのかたちそのものが、伝えたい主体者の覚悟や本気度を暗に示している。地上波か、インターネットTVか。雑誌かウェブメディアか。届けるメッセージに合わせて、メディアのかたちを選ぶ時代なのだ。

その最たるものがローカルメディアだ。読者も資金も人材も不足している課題先進地域の地方でメディアを立ち上げ継続的に運営していくためには、普段、マスメディアや商業出版の外にいる読者を獲得しなければいけない。この連載でもこれまで紹介してきたように、流通先の意外な開拓方法(みやぎシルバーネット)、出版流通の仕組みを逆手に取った地域限定本(本と温泉)など、コンテンツそのもののクオリティ以上に、メディアのかたち(流通形態)そのものを発明しているローカルメディアこそが、これからのメディアや出版のフロンティアを指し示してくれる。

また、地域を元気にするのは、何も観光収入などによる経済的な効果だけではない。それほどお金が回っていなくても、自分たちが暮らす地域にプライドを持つことや、かけがえのない仲間がいること、つまり、文化とコミュニティが根付いているかどうかが重要だ。2014年に出版した『大人が作る秘密基地』(DU BOOKS)でも取材した、いわきで活動するヘキレキ舎代表の小松理虔さんは、娯楽の少ない地方では、休日の過ごし方が単調になる。そんな地域でアフターファイブに自分たちの好きなことがしたいと思って、仲間たちとオルタナティブスペースUDOK.を立ち上げた、と語ってくれた。

都市部のような文化娯楽の選択肢が少ない地元だからこそ、自分たちで遊び場や仲間をつくる。そういう気概のある若い力が結集し、経済的成功だけではない地域文化を育むことこそが、5年後、10年後の地域の未来を考える上でもっとも重要なことだと思う。

メディアのクライテリアの複数化を

一方、地域における「クリエイティブ」の現状を鑑みるに、そう悠長なことも言っていられない。都市部の価値観が地域に押し付けられ、東京で発行される雑誌のカタログの一片に、ビジュアルセンスや流行などの一面的な共通点だけで、地方発のデザインプロダクトやメディアが、まるで「見本帳」のように一様に並べられる状況がいまだに続いているからだ。「なんとなくオシャレ」だとか、「なんとなく今っぽい」という評価軸だけで、地域のクリエイティブのアウトプットが評価される状況はなんとかしなくてはいけない。じゃあ、どうすればいいのか?

それは、単一のクライテリア(評価基準)に囚われる受け手(読者、消費者、購買層)のマインドセットを変えることから始まるように思う。たとえば、デザインセンスはないけれど、文章がものすごく面白いメディアがあったとして、ビジュアルでは伝えられない場合、どうやって評価するか? わら半紙のような手軽なものに印刷されているけれど、熱狂的なファンを抱え込んでいる媒体はどうやって評価するか? デザインが洗練されたプロダクトやメディアの見本帳では、機能的に優れた(機能美というよりももっと別な)プロダクトやメディアの本当の魅力を伝えることはできないだろう。

東京にほとんどの出版社が存在し、デザイナーや編集者、ライターやイラストレーターなどのクリエイティブ職が集積していたこれまでと違って、いまや出版やメディアのフィールドが地方にゆるやかに広がり、クリエイティブ人材が各地に分散している。そんな時代に突入しているにも関わらず、「地域×クリエイティブ」という新しいマーケットが生まれると、結局は都市部の価値基準(クライテリア)に集約・搾取されてしまう制作物を、別の基準で評価する必要が生まれているように思う。

「EDIT LOCAL」のトップページ。

そんな意図もあって、最近僕は、「EDIT LOCAL」というウェブメディアを立ち上げた。「ソーシャル」や「コミュニティ」というバズワードに踊らされ、都市部の一面的な評価軸に乗ることを目的とするのではなく、地域の文化・コミュニティを醸成することを第一に考え、とにもかくにも自分たちの問題は自分たちで考えぬくこと。地域に根ざし、その地域ならではのクリエイティブ(ヴァナキュラーなデザイン・編集と言ってもいい)を開発することに勤しんでいる人々のスキルを正確に読み解き、記録しておくこと。つまり、「クライテリアを複数化」すること。それが「EDIT LOCAL」を発行した目的のひとつだ。

大量生産メディア時代の終わり

複雑なものを、複雑なまま評価すること。こんな当たり前のことが、ようやくできる時代になった。安価かつ大量生産されるメディアを一般大衆に届けることで成り立っていた出版産業(週刊誌、文庫、新書など)の全盛時代は、終わったと言ってもいいと思う。これからは「限られた人に、限られた情報を届け」、メディアを媒介に人や情報の多様な流れをつくる時代ではないか。

商業出版に携わる編集者がこれまでやってきたことは、専門分野の著者の言葉を、大量生産メディアを通じてより多くの人々(大衆)に届けるという仕事だった。しかし、これからの時代の編集者の仕事は、ある限定されたコミュニティで交わされる情報の流路やメディアのかたちを戦略的に生み出していくことだと思う。

本誌編集発行人の仲俣暁生さんと一緒に、昨年よりローカルメディアにまつわる講座を続けてきたが、その流れの中で、地域デザイン学会でローカルメディアフォーラムというものを立ち上げることになった。12月2日には、荻窪・6次元で第一回目のフォーラムが開催されるので、ご興味ある方はぜひ参加してもらいたい。

ローカルメディアの隆盛は、一過性のブームではなく、マスメディア研究の枠内を超えて、「人間の感覚を拡張する技術」としてのメディアの本質を指し示してくれるものだと思う。僕たちは、情報を一方的に大衆に届けるマスメディアを前提とした「メディア」の考え方を捨てて、人と人が相互に情報を交わし、異なるコミュニティをつなぐ広義の「メディア」を考えるフェーズに立ち会っている。「ローカルメディア」のブームは、メディアの価値観を新たにするためのきっかけにすぎない。ツイッターか、インスタグラムか、などなど、1〜2年で覇権が入れ替わるソーシャルメディアの勢力図に右往左往している場合ではない。

群雄割拠のメディア戦国時代を楽しく乗りこなしていく、そんなツワモノが各地で生まれては消えていく、それらの生を看取り、場合によってはプレイヤーとしてアリーナに参戦する、そういう、編集や出版の仕事にこれからも携わっていきたい。


【ローカルメディアフォーラム開催のお知らせ】

以下の日程で、地域デザイン学会主催の「第1回ローカルメディアフォーラム」を開催します。学会員以外の参加も可能です。

日時:2017年12月2日(土)15:00~18:30 ※終了後、懇親会を行います(18:40~20:00)
場所:6次元(東京都杉並区上荻1丁目10-3)※最寄り駅はJR荻窪駅
http://www.6jigen.com/map.html
定員:30名(先着順)
参加費:フォーラム=1000円,懇親会=2,000円(当日受付にて集金)

テーマ:「〈コミュニティ×メディア〉世代を超えたコミュニティが集う場づくりと、地方におけるクリエイティブの役割」
出演:小松理虔(ヘキレキ舎代表)、ナカムラクニオ(6次元代表)、影山裕樹(『ローカルメディアのつくりかた』著者)、仲俣暁生(「マガジン航」編集発行人)、原田保(一般社団法人 地域デザイン学会理事長)

※詳細なスケジュールと参加申し込みはこちらから。
地域デザイン学会
http://zone-design.org/forum/localmedia.html

執筆者紹介

影山裕樹
1982年生まれ。合同会社千十一編集室 代表。アート/カルチャー書のプロデュース・編集、ウェブサイトや広報誌の編集のほか、各地の芸術祭やアートプロジェクトに編集者/ディレクターとして関わる。著書に『大人が作る秘密基地』(DU BOOKS)、『ローカルメディアのつくりかた』(学芸出版社)、編著に『ローカルメディアの仕事術』(学芸出版社)、『あたらしい「路上」のつくり方』(DU BOOKS)など。
千十一編集室:https://sen-to-ichi.com/
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