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第5回 紙やウェブに捉われない新しいメディアのかたち

YCAMで開催されたローカルメディアWS

RADLOCAL 2の風景(提供:山口情報芸術センター)

先日、山口情報芸術センター(以下、YCAM)の企画で、同施設にて「RADLOCAL 2」という3泊4日の集中ワークショップが開催された。テーマは「データマイニング×ローカルメディア」。日常の様々なデータ(身体のデータ、環境のデータ)をセンシングして、そこから見えてきた知見をローカルメディアに落とし込むという企画だ。

YCAMはこれまで、子供向けの遊び場「コロガルパビリオン」を始めとして、テクノロジーを用いたアート作品やプログラムを多数展開し国際的に注目を浴びてきたが、近年のYCAMは、瀬戸内国際芸術祭で発表された「Creator in Residence 「ei」」での取り組みのように、インターネットやデバイスのテクノロジーのみならずバイオテクノロジーに着目したり、YCAMが根ざす山口市周辺地域へのアウトリーチ活動など、施設内の技術者のリソースをこれまでとは違うフィールドへ活かそうと様々なプログラムを模索・展開している。

そんななか、僕が講師として参加した「RADLOCAL 2」はまさに地域へのアウトリーチを目指したプログラム。正直、テクノロジーとは無縁だった僕にとって、どことなく場違いな感覚があった。だが、ビッグデータやセンシングツールを用いることで、紙やウェブにとらわれない新しいローカルメディアのアイデアが生まれることを期待してもいた。

ワークショップはまず、YCAMのスタッフによるプレゼンと、ソフトウェアエンジニアの山田興生さんによるプログラミングの授業から始まった。その後、デザイン・リサーチャーの水野大二郎さんがワークショップのメソッドを語り、僕がひととおりローカルメディアの様々なバリエーションを紹介した。そして、残りの時間で受講生がひたすらローカルメディアのプランを練り上げ、それぞれ発表した。

紙やウェブに限らないメディアの捉え方

ワークショップでは3チームずつ計6チームで、YCAM近辺の山口市中心商店街と湯田温泉に分かれて、それぞれの地域で「どんなデータが取れるか」を探るフィールドワークを行なった。雑踏の音、お店の会話、気温などの環境データから、人の体温などの身体データまで様々なデータを検証し、そこから得られる情報を持ってどんなメディアを作るかを、昼夜問わず行われたディスカッションを通して、最終的に1チーム15分のプレゼン資料にまとめ上げた。

ここで焦点となったのは、「ローカルメディア」という概念の捉え方だった。メディアというだけで、人はどうしても紙メディア(フリーペーパー、雑誌)やウェブメディアを想像しがちだ。しかし、ローカルメディアが最大の効果を発揮するのは、作り手から受け手に向けて、情報が一方的に届けられる時ではなく、受け手と発信者が相互にコミュニケーションを始める瞬間だ。そう考えれば、紙やウェブでの発表という先入観を超えて、いかに”つながるためのメディア”を作るかという視点が生まれる。

例えば、湯田温泉チームが発表した「かべぽ」というプランでは、地元の人へのヒアリングの段階で、湯田温泉に引かれている温泉の泉源が余っているという話を聞いた(地域課題の発見)。その泉源を再利用する方法はないか。目を付けたのは温泉街の様々なところにある足湯(地域資源の発見)。ここまで聞くと着眼点はありきたりだが、彼らのプランがユニークだったのは、泉源から引かれるお湯を管に通して、まちじゅうに設置された(と仮定した)壁を温めるということ。

湯田温泉街にある壁の一例。壁に寄りかかって待ち合わせをしたり。(撮影:髙橋茉莉)

その壁は暖かいので、近所の猫が集まってきたり、あるいは寒さをしのげるので待ち合わせに最適だ。靴と靴下を脱がないといけない足湯の煩わしさを排除できるのと同時に、まちの風景を変え、新しい観光資源を生み出すことができる。そこで取れる会話や熱量をセンシングすれば、地域内の人の移動経路を可視化することも可能だ。

他にも湯田温泉チームからは、足湯をモバイル化して持ち歩く「たためる足湯」、人感センサーを用い、スナックが多い裏通りに観光客が来るとライトが光る「夜のオレンジ計画」、山口市中心商店街チームからは、夜のシャッター商店街をテクノロジーを使ったスポーツイベントのために開く「夜の運動会」、いたるところに置いてある休憩用ベンチに2人以上の人が座るとサプライズイベントが起こる「で会いましょうベンチ」などのプランが発表された。

“壁”という“面”をメディアにする

グループワークの様子(撮影:萱野孝幸 提供:山口情報芸術センター)

これらのプランが一体なぜ「ローカルメディア」なのか? という向きもあるだろう。しかし、ローカルメディアとは、これまで語ってきたように、まるで井戸端会議のように、人と人との交流や会話を生み出す“場”そのものだ、という考え方がある。そしてメディアとは、普段異なるクラスタに属する人々を集わせる“面”として機能すべきものだ。「かべぽ」はまさに“壁”という“面”であると同時に、タイトル自体が親しみやすく、プランの本質を言い当てていて分かりやすい。さらに、年代やコミュニティにとらわれず、観光客や地元の人にも分け隔てなく利用されうる動機(寒さの回避という普遍的な欲求)を備えている。そういう意味でこれは紛れもなく地域の人と人をつなぐ「ローカルメディア」と呼んでいいと思う(ちなみに、「壁に寄りかかって集う」というアイデアはエルサレムにある「嘆きの壁」から着想したそうだ)。

さいたまの浦和で始めた「裏輪呑み」。

僕は最近、「途中でやめる」という服のデザイナーの山下陽光と、アーティストで写真家の下道基行とともに「新しい骨董」というユニットを始めたのだが、そのなかで、100円ショップで売っている300円の強力マグネット付きのカゴを裏返して、まちなかの金属に貼り付ければ、あっという間に立ち飲み屋になる「裏輪呑み」という活動を行なっている。このカゴを脇に抱えてまちを歩くと、まるでスケーターが路上の起伏を見るように、金属が貼れる壁を探している自分に気づく。シャッターや電柱、工事現場の白い衝立やトラックの荷台……お酒が売っている自動販売機に貼り付ければエンドレスにビールが飲める。シャッター商店街でやればまちが活気付く。そうやって想像しているうちに、まちの見え方が180度変わっていることに気づいた。

この裏輪呑みの活動をブログで紹介すると、関西を起点に全国各地で真似する人が現れ始めた。心斎橋のアップルストア前や、京都の河原町のど真ん中で、大勢で裏輪呑みをしている人々の様子をツイッターなどで見るにつけ、裏輪呑みもローカルメディアなんじゃないか、と思うようになっていた。ネットニュースにも取り上げられ、見ず知らずの参加者が、「誰のものでもない場所を誰のものでもある場所にする、裏輪呑みの真髄を体験できた」ともっともらしいことを語ってくれている。

路上の立ち飲み実践・裏輪呑みも「ローカルメディア」である

信号待ちしながら呑んでみる。

裏輪呑みをしていると、近くを通るサラリーマンや外国人が寄ってきて、会話が生まれる。普段関わらない人と新しい関係を結ぶツールになっている。それだけではなく、様々な地域で裏輪呑みを行うと、そのまちの特徴がおぼろげながら見えてくる。田舎の田んぼのど真ん中でやっても人は集まらない。都会でやったほうがいいだろう、とか。東京や埼玉の都市部で行うと警察が寄ってきたり、白い目で見られたりする。一方、関西は都市部においても相対的にやりやすい。よくよく大阪のまちを注目していると、コンビニでお酒を買ったサラリーマンが、脇にたまって呑んでいる風景にちらほらと出会う。「路上が自分たちのものである」という感覚が東京に比べて未だに強いのかもしれない。

買い物や仕事のため効率的に移動するのではなく、その場に止まってお酒を呑むので、ジェントリフィケーションや再開発という都市の欲望みたいなものから一歩引いた目でまちを眺めることができる。東北食べる通信の編集長・高橋博之さんが、食材付き雑誌「食べる通信」の仕組みについて、あらゆる地域に落とし込みやすい“にがり”のようなものだ、と言っていたことを思い出す。その言葉を証明するように、現在、日本各地で37の食べる通信が創刊・運営されている。同様に100円ショップはどこにでもあるし、持ち歩くのも容易い。だから裏輪呑みも、自分たちだけの“遊び”ではなく、汎用性のある遊び=“にがりとしてのメディア”になりうると思っている。

メディアのテクノロジーが民主化し、新しいアイデアが生まれる可能性

地方での一人出版社や、メディア企業やクリエイティブ産業に従事していた若い世代のUターン・Iターン、地元企業によるユニークな自社メディアの誕生が、地域メディアの“今”を支えている。都市と地方によって確実に格差のあった出版・メディア産業とそのテクノロジーが民主化し、広がりつつある風景に僕らは立ち会っている。インターネットの登場によって誰もが同じ情報にアクセスできる時代が生まれた。印刷やDTPなどのテクノロジーも安価に、手軽に使えるようになった。だから、都市と地方のメディア産業の従事者の格差を縮めることが、これからのメディアのフロンティアになる(しかしそれは昨今話題になっている、キュレーションメディアによるライター業の民主化とは違うだろう)。

ただ一方で、出来上がったもののクオリティではなく、人と人がつながるプロセス、メディアを通してまちが劇的に変わったエピソードなどは、東京に集まってくる「話題のローカルメディア」を手にとっているだけでは見えてこない。大衆や不特定多数の読者のために生み出されるメディアと違って、ローカルメディアは限られた顔の見える人たちとつながるために作られているからだ。デザインがいまいちかもしれない。有名人ではなく、そのへんにいるおじさんが原稿を書いているだけかもしれない。でも、ローカルメディアの受け手にとっては、有名作家が語るよりもそのへんのおじさんが語るまちのほうにリアリティがあるかもしれない。

いわゆる「良い雑誌を作ろう」という業界のサーキットに始めから乗ってないローカルメディアの価値に気づき始めると、今度は紙やウェブといった従来のメディアのフォーマットを疑うことができる。日本中の地方自治体が毎月予算をつぎ込んでいる広報誌の多くは、当然このメディア産業の枠組みを縮小再生産しているにすぎないだろう。

こういうときこそ、金脈を探り当てるように、メディアの本質的な意義に光を当て、新しいアイデアを生み出していってみてはどうだろうか。そのためには、よそ者と地元の人が膝を付き合わせて、人的資源や地域資源を発掘しながら、常識のベールを一枚づつ剥ぎ取っていく機会を各地で設けることが重要なのだ。


【お知らせ】
11月の開催が順延となっていた連続セミナー「ローカルメディアで〈地域〉を変える」の第3回(最終回)の日程が決定しました。

ローカルメディアで〈地域〉を変える【第3回/最終回】
「メディア+場」が地域を変える:瀬戸内、近江八幡、鎌倉の事例から

登壇者は、以前に告知したお二人に加え、第二部に合同会社アタシ社のミネシンゴさんもお迎えしてディスカッションも行います。これまでにご参加になった方も、今回が初めての方も、ご来場を歓迎いたします。

日時:2017年2月13日(月)14:00-18:00(開場は13:30)
会場:devcafe@INFOCITY
渋谷区神宮前5-52-2 青山オーバルビル16F
http://devcafe.org/access/
(最寄り駅:東京メトロ・表参道駅)
定員:30名
受講料:8,000円(交流会込み)

講師:
・磯田周佑(小豆島ヘルシーランド(株)マネージャー/MeiPAM代表 /(株)瀬戸内人会長)
・田中朝子(たねやグループ社会部広報室室長)
・ミネシンゴ(編集者・合同会社アタシ社代表)

※チケットの申込み、登壇者の詳細なプロフィルなどはこちらを御覧ください。
http://peatix.com/event/223768/view

執筆者紹介

影山裕樹
1982年生まれ。合同会社千十一編集室 代表。アート/カルチャー書のプロデュース・編集、ウェブサイトや広報誌の編集のほか、各地の芸術祭やアートプロジェクトに編集者/ディレクターとして関わる。著書に『大人が作る秘密基地』(DU BOOKS)、『ローカルメディアのつくりかた』(学芸出版社)、編著に『ローカルメディアの仕事術』(学芸出版社)、『あたらしい「路上」のつくり方』(DU BOOKS)など。
千十一編集室:https://sen-to-ichi.com/
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