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作家団体と書店組合が対アマゾンで手を取り合う

アマゾンへの「しっぺ返し」

複数の米作家団体+書店組合が司法省に陳情「独禁法違反の疑いでAmazon社を調査してほしい」(2015年7月14日 hon.jp)

このニュースを聴いても、正直なところ、たいした驚きはなかった。どちらかと言えば「やっぱりやるのね、あなたたちは」という、自分と関係ない戦に出兵する人たちを見送っているような……。

本を売るリテイラーとしては、アメリカでネット販売される紙の本の4分の3、紙の本全体の3割、Eブック全体の6割を売りさばく、いまやいちばん強大な「アカウント」となったアマゾン。彼らこそが、市場を独占している寡占企業ではないのか?――という声は、5年前に米司法省が米最大手5社の出版社(ビッグ5)とiBooksを展開するアップルを電子書籍の販売における談合のカドで訴えた頃から聞こえていた。この訴訟につながった調査依頼をしたのは他ならぬアマゾンだったから、今回の動きを当然のしっぺ返しととる向きもある。

EUではアマゾンの企業活動を制限しようとする動きがあり、今回の調査依頼もそれに倣ったものだという見方をしている記事もいくつかあったが、あまり関係ないように思える。アメリカの企業であるアマゾンが、ヨーロッパ各地でEブックの販売を締め付けられるような目に遭っているからって、アメリカ政府までもがその流れに乗じるって、変でしょ?

驚きがあったとすれば、複数の作家協会と全米書店協会が手を組んで原告に名を連ねていることだろうか。私の記憶では、ときに相反する利害関係をもつ「作家」と「書店」の団体がこういったかたちでタッグチームを組んだことはかつてなかった。

スリラー作家の復讐

仕掛け人というか、言い出しっぺというか、今回の調査依頼の取りまとめをしている人物はスリラー作家のダグラス・プレストンだ(FBIのペンダーガスト特別捜査官が活躍する『レリック』など一連のリンカーン・チャイルドとの共著や、単独執筆者としてテクノ・スリラーも書いている。考古学や地質学などの分野でニューヨーカー誌に寄稿しているかと思えば、イタリアに移り住んで地元の事件に首を突っ込んでノンフィクションを書いたりもする多才な人)。

ビッグ5出版社のひとつ、アシェットが、一昨年にEブックの卸値をめぐりアマゾンと揉めたことがあった。業を煮やしたアマゾンは、自社のコマースサイトから一時的にアシェットの本を買えなくしてしまった。プレストンはこのときに大いに迷惑を被った(つまりは入って来るはずの印税が入ってこなかった)作家の一人でもある。

このときアマゾンの処置に怒ったプレストンは、まず作家仲間に呼びかけて抗議署名を集める運動を始め、最終的に1000人以上が同意した。それが今回、独禁法違反についての調査依頼を呼びかけている「オーサーズ・ユナイテッド(Authors United)」という組織にまで発展した。

オーサーズ・ユナイテッドはサイト上でアマゾンに送った文面を公開している。

アマゾンとアシェットが契約に合意した後もプレストンは、2014年の9月に「ニュー・アメリカ・ファウンデーション(米国内外の政策シンクタンク)」のバリー・リンに依頼し、司法省宛てにアマゾンが独禁法に違反していないか調査することを促す要請書を書かせている。そのレポートが満を持してこのたび提出され、他の2団体もそれぞれの立場から同様の調査依頼を求める陳情書を提出したというわけだ。

これらの陳情書では、政府に対して、メディアのひとつである書籍に対して巨大な影響力をもつ企業として、はたしてアマゾンはきちんと法を遵守しているか――つまり表現の自由を司るわれわれ書籍出版社の力を抑圧していないかどうか、お調べになった方がようござんすよ、と言っているのである。

「表現の自由」を保証した憲法修正第一条に違反?

オーサーズ・ユナイテッドがこの調査依頼で指摘しているのは以下の点だ。

これらの事柄が調査によって立証されれば、政府がそれを放置するのは「表現の自由」を保証した憲法修正第一条に違反することになる。彼らとしては、こうした方向に持って行きたいのだろう。

オーサーズ・ギルドは由緒ある作家団体。

もう一つの作家団体である「オーサーズ・ギルド(Authors Guild)」は、1912年にニューヨークで結成されたライターたちの組織 The Authors League of Americaから、1921年に脚本家・作曲家・作詞家が別団体を立ち上げたため、枝分かれして誕生した。その際には、セオドア・ルーズベルト(大統領としての最後の仕事は1909年に著作法を制定したこと)が副会長を務めたほどの由緒ある作家団体である。オーサーズ・ギルドは、著作権保護期間の拡大にかんしてはこれを支持し、言論規制にかんしては反対する立場をつねに明確に表明してきた。

オーサーズ・ギルドのロクサーナ・ロビンソン会長は、今回の司法省への調査依頼への同意書のなかで、「米司法省対アップル社の上訴審では談合はなかった」とするアップルの言い分を退けた判事3人の言葉を挙げている。判事らはこの上訴審で、当時のEブック市場ではアマゾン(Kindle)のシェアは90%に及んでおり、寡占状態だったことを認めていた。

インディー書店が調査依頼に賛同する理由

一方で、アマゾン誕生当初からいち早くこれを書店を脅かす存在だと認知し、闘いを続けてきた「町の小さな本屋さん」の団体であるABA(全米書店協会)も調査依頼者に名を連ねているが、その立ち位置が興味深い。

ABAは全米のインディー書店を組織した団体。

全米書店協会と聞いて、日本のように「本が売れない」と嘆いている大型書店チェーンの業界団体のようなものをイメージしてはいけない。ABAはインディー書店と呼ばれる小さい本屋さんの集まりで、バーンズ&ノーブルやブックス・ア・ミリオンといった全国展開をしているチェーン店はメンバーに含まれない。

そのABAが今回の調査依頼に賛同したのは、アマゾンが自分たちの存続を脅かすという理由ではなく、出版社と著者を守ることが「本のエコシステム」にとって不可欠だから、という立場からなのだ。アマゾンのせいで米国内の書店が閉店に追い込まれていることは、弱肉強食のビジネスである以上、仕方がないことと受け止め、自分たちなりに対処する。だが、出版社にはもはや「アマゾンと取引しない」という選択肢はないのだから、その立場は守られるべきだと擁護しているのだ。カラ元気だとしても、その潔さにシビれてしまう(ABAのメンバーであるインディー書店のオーナーたちや、オレン・テイチャー会長とは面識があるので贔屓目になってしまうが)。

だが、そんな個人的な感情を抜きにしても、この調査依頼を訴える手紙の宛先が気になる。ウィリアム・ベア(William Baer)という人物は司法省反トラスト法部の司法次官補なのだが、この人はかつてのアップル対司法省の談合裁判を「現状を打開する新しい企業の進出を、旧来の企業が談合で阻止しようとした例」だと発言しているからだ。

たしかにアップルのiBooksを、Kindleに対抗しうるものとしてエージェンシー・モデル契約で歓迎した大手出版社は、アマゾンによる電子書籍の価格破壊によって自らの利益が損なわれることをも懸念したろう。だが、読者が安価で本を楽しめることだけでなく、もうひとつ他にも出版社が守らなければならないものがある。そのことをベア氏はわかっているのだろうか。それは出版社にとっての金の卵、つまりコンテンツとなる本を書く著者たちだ。著者団体からこの陳情書を突きつけられて、この人はどう判断するだろうか。

作家個人や書店の利益損害というのは、まだ矮小な問題でしかない。それだけではなく、大手書店の存続のためでもなく、表現の自由と、健全な文化の発展を可能とするエコシステムを守るために小き者が立ち上がった、という図式で捕らえるべきなのではないか。この観点に立つなら、アマゾンは彼らを捕って喰らう巨人に他ならないのだから。

ちなみに、今回の三つの団体の調査依頼陳情書の原文は、ニューヨーク・タイムズのサイトですべて読むことができる。

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執筆者紹介

大原ケイ
文芸エージェント。講談社アメリカやランダムハウス講談社を経て独立し、ニューヨークでLingual Literary Agencyとして日本の著者・著作を海外に広めるべく活動。アメリカ出版界の裏事情や電子書籍の動向を個人ブログ「本とマンハッタン Books and the City」などで継続的にレポートしている。著書 『ルポ 電子書籍大国アメリカ』(アスキー新書)、共著『世界の夢の本屋さん』(エクスナレッジ)、『コルクを抜く』(ボイジャー、電子書籍のみ)、『日本の作家よ、世界に羽ばたけ!』(ボイジャー、小冊子と電子書籍)、共訳書にクレイグ・モド『ぼくらの時代の本』(ボイジャー)がある。
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