1985年、ほぼ何でも好きなドットコムのドメイン名を手に入れることができた時代に、あなたが起業家だったとしたら、どんなにすごいか想像できるだろうか? あらゆる名前が使えるのだ。短い名前でも、カッコイイ名前でも。希望するドメイン名を申請するだけで良い。料金を払う必要もない。このすばらしい状況が何年も続いた。1994年に雑誌ワイアードの記者は、mcdonalds.comが未登録であることに気づいた。そこで、私たちの勧めに従って、その記者が自分でドメイン名を登録して、マクドナルドに譲ろうとした。しかし、同社のインターネットに対する無知ぶりは滑稽なほどで、その話がワイアードの記事になった。その少し前に、私はabc.comが未登録であることを発見したので、ABCの最上階の役員室にいる経営陣に向けて、デジタルの未来に関する講演をしたとき、ここの地下室にこもっている頭の良い計算機オタクに自社のドメイン名を申請させるべきだという話をした。でも、彼らはそうしなかった。
当時のインターネットは、制限のない未開拓の地であった。X分野での世界初を容易に達成することができた。消費者はあまり期待していないし、障壁もきわめて低かった。検索エンジンを始めよう! オンラインストアだ! 素人動画を提供しよう! もちろん当時と今では事情が違う。今振り返ってみると、入植者が波のように次々とやってきて、すべての開発可能な土地を重機で切り開いていったようなものだ。今の新参者には、扱いに困るような狭い場所しか残されていない。当時から30年経過したインターネットは、膨張して飽和してアプリやプラットフォームやデバイスで満杯になり、今後数百年にわたって人間の注目を集めてもまだ余るほどのコンテンツが存在している。あなたが苦労してちっぽけな技術革新を生み出したとしても、誰が気づいてくれるのか?
しかし、過去30年間に私たちがネットから得たものを考えると、その豊富さは、ほとんど奇跡のようにも思える。たとえば、どこにいても友人や家族と即座につながる連絡手段、いつでも必要なときに流れてくる好みに応じたニュース、世界中の大部分の都市の拡大縮小可能な3D地図、話した音声で検索できる百科事典、ポケットサイズの装置で見られる映画、何でも翌日配達可能な仮想ストアなど、考えられる数千例の中からわずか6個を示してみても、すごいものばかりだ。
でも、でも……問題がある。インターネットに関しては、まだ何も起こっていない。インターネットは、今もなお、始まりの始まりの状態にすぎない。もしもタイムマシンに乗り込んで30年後の未来に行ったとして、その眺望のきく地点から現在を振り返って見れば、2044年の市民生活を支える重要な製品の大部分は、2014年を過ぎるまで発明されていなかったことに気づくだろう。未来の人たちは、ホロデッキや、ウェアラブルコンタクトレンズや、ダウンロード可能なアバター、人工知能インタフェースが2014年以降に出現したことを知る。そして、「本当は、インターネット(またはどんな名前でも)というものは、あの時代にはなかったのですね」と言うだろう。
未来の人は正しい。現代の視点から未来を見れば、今世紀前半のネット上の重要な発明は、すべて私たちの前方に存在している。これらの奇跡的な発明品は、途方もなく向こう見ずな夢想家が現れて、そこにころがっている成果をつかみ取るのを待っている。1984年のドットコムドメイン名と同じ状況なのだ。
2044年の老人は、きっとこんなことを言うだろう。「2014年にあなたが起業家だったとしたら、どんなにすごいか想像できるだろうか? その当時は、制限のない未開拓の地であった。何でも好きなX分野を選んで、多少の人工知能を付加してクラウドに置けば良いのだ。当時の装置は、せいぜい1個か2個のセンサを使うだけだった。今のように何百個も使わない。期待も障壁も低かった。容易に世界初を達成することができた。」そして、嘆く。「あのとき、すでに何でも可能になっていたことに気づいていたら!」
つまり、これが真実だ。今、すなわち2014年の現在は、インターネットで何かを始めるのに最良の時期である。世界の歴史において、何かを発明するのにこれほど最適な時代はなかった。現在ほど良い状況、多くの機会、低い障壁、高いベネフィット・リスク比、良い利益率、多くの利点に恵まれた時期はなかった。たった今、この瞬間だ。未来の人たちは、現在を振り返って言うだろう。「ああ、あの時代に生きていたら良かったのに!」
過去30年間に、すばらしい開始点、すなわち、本当に偉大なものを作るためのプラットフォームが生まれた。しかし、最高のものはまだ発明されていない。この新しくて偉大な発明品は、今日存在するものとは比べものにならない。単に「秀逸」というだけでなく、異質、超越、その他の性質を持つ。しかし、それは、すでにわかっていることだ。
気づいていなかったかもしれないが、今の時代は、制限のない未開拓の地である。人類の歴史上、かつてないほど何かを始めるのに最適な時期である。
今からでも遅くはない。
(日本語訳:堺屋七左衛門)
※この記事は2014年8月21日に「七左衛門のメモ帳」に投稿された同名の記事を、クリエイティブ・コモンズ 表示-非営利-継承 4.0 国際ライセンスの下で転載したものです。
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執筆者紹介
- (Kevin Kelly)
ジャーナリスト。米「WIRED」創刊編集長。著書『テクニウム〜テクノロジーはどこへ向かうのか?』(みすず書房)、『ケヴィン・ケリー著作選集1』『同2』(達人出版会、1はポット出版からも)ほか。
公式サイト:http://kk.org/
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