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絶望を編集する

なぜ、わたしは、本をつくるのだろうか。おそらくその理由は、絶望しているからなのだろう。わたしが望むものは、生きているうちには、たぶん手に入らない。デザイナーだったわたしは、本をつくった。編集者になったわたしは、政治にまみれた。その歩みのなかで、絶望しながら、一筋の希望として、未来のこどもたちにセーブデータとして本を残したい。持続可能な社会を求めている。それは、いつかだれかが「理想」にたどり着いてほしいからなのだろう。

絶望を希望に変えていく物語

遡ること、10年前。2010年、それは、この国が変わろうとした時代だった。しばらくして、わたしたちは、正しく変わることは難しいことに気づく。挑戦して失敗するくらいなら、このままでよい。こうして、時が止まったまま、いまに至る。変わろうという問いかけは、もう響かない。しかし、事態は10年前より深刻だ。

さらに遡れば、およそ20年前の地方分権一括法の成立。わたしたちのまちは、わたしたちでつくる。そう、魂を燃やした人たちがいた。その10年ほど前には、バブル崩壊。判断を先送りすることにしがみつき、幻想にまどろめば、ますます状況は悪化するばかり。しかし、幻想が長引くほど、存在意義が揺るぎかねない過去を、心得者は誰も否定できなくなっている。そして、わたしたちの思考は静止した。

わたしも、変わらなければならない。そのように、考えていた。いや、もちろんいまも変わらなければならないと思っているが、パラダイムシフトの過程で、大きな苦しみが生まれることを知ってしまったのだ。その恐怖を目の前にして、足がすくんで、尻もちをついた。しかし、あきらめるわけにはいかない。少しでも先に、ちょっとでも前に進んで、次の世代へ襷を。淡々と凡庸にやっていく覚悟を決めるやいなや、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)がその苦しみをもたらした。

失われた10年で自信を失い、失われた20年で希望を失い、失われた30年、わたしたちは何を失うのか。それはまだ、だれにもわからない。だけど、わたしは、失われた30年で幻想を失いたい。

わたしが絶望しているのは、COVID-19に対してではない。わたしの絶望は、やればできるんだという自信が、明日はもっとよくなるという希望が、この国にはないことに対してだ。この国にあるのは、自分たちだけは間違ってない、自分たちだけはなんとかなるという根拠のない幻想だから。もう、見てみないふりをするのは、やめませんか。

いま、止まっていた時間が、動きはじめている。経済、政治、学問、この国の幻想が、バレはじめている。気づいてしまった人たちが、オンラインを武器に集結しはじめている。なぜなら、いま変われるか変われないかで、わたしたちが生き残れるか否かが決まるからだ。

そして、そのあとに、少し成長したわたしたちが待っている。見えにくくなっていたものに、意味を見いだそう。ポストコロナの一皮むけた社会を、いまこそ、多くの人とともに構想することはできないだろうか。

あたらしい「冒険の書」をつくる

答えのない複雑な時代に、わたしたちは何をすればよいのだろうか。いまこの瞬間も、災禍の最前線で働く人たちがいる。一方、素早くフローしていく経済が止まった。COVID-19が、強制的にあらゆる「量」を減らした。都市に集まって効率よく暮らしていた人たちの多くが、家のなかで先の見えない日々を過ごしている。

そのころ地方は、終焉を迎えた。中央と地方には、「イベント」という大きな情報格差があったが、「オンライン化」によって、情報とつながりを交換する場にそびえ立つ地域の壁が崩壊した。情報という視座から言えば、「中央/地方」の構図は急速に融け出しているのだ。なかなか進まない、ややもすると課題設定を誤った地方創生。地方が創生するまえに、地方という概念自体が消失しようとしている。その結果、グローバルな軽量化できる「意味」は、ローカルでも享受できるようになる。しかし、ローカルにある軽量化できない「意味」は、グローバルには享受できない。たとえ少数意見であっても、誰かにとって明確に「意味」のある場所は、これからも残り続けるだろう。

COVID-19の災禍が訪れる前から、上述の構想を語る人たちがいた。その構想が、一気に現実味を帯びている。ステイホームのわたしが、いまできること。それは、長期にわたって、その未来構想を語っていた人たちを見つけ出し、いまのうちに、そのセーブデータを残しておくこと。つまり、未来の最前線に備える準備だ。

本をつくろう。久しぶりにそう思った。

しかし、いままでのようには、本をつくれない。複雑な環境下で本をつくるには、アジャイルな出版、オープンイノベーションによる出版が求められる。あらゆる対立を超克し、多様な意見な止揚させながら仮説を打ち立てていく。小さく素早い失敗と検証を繰り返す出版、対話(関係性)と編集(戦略)の両輪でプロセスを価値にする参画型の出版、この2つの出版展望が、解なき複雑な時代の出版を拓くのではないか。

出版のプロセスを編集する

その出版展望を分解すると、4つの方針から構成される。①取材のイベント化/②出版のアジャイル化/③関係性のプロダクト化/④書籍のプロセス化である。

1つ目にあたる「取材のイベント化」について、オンラインイベントとしての公開取材という形式を用いて、全7回のシリーズで開催する。このシリーズでは、COVID-19によってパラダイムシフトが迫られている「観光」「政治」「アート」などのこれからについて、本のつくりかたのこれからとともに、考えていこうとするものである。

第1回のテーマは、「持続可能性 × ポストコロナ」。地域の現場で対話の場をつくり続ける元・県庁職員の「対話屋」と、ポストコロナに顕現する未来について話すことにした。


ONLINE TALK LIVE「絶望を希望に変えていく物語」

chapter.1|持続可能性 × ポストコロナ

– 日時|2020年5月22日(金)20:00-22:00
– 場所|オンライン
– 取材対象者|反町恭一郎(合同会社WORKARTS:代表社員)
– 取材者|堀直人(NPO法人北海道冒険芸術出版:共同代表理事)
– 参加費|無料
– 主催|NPO法人北海道冒険芸術出版

※このオンラインイベントは、席に限りはありますが、入場は無料です。Peatixから公開取材参加の申込を募集しております。みなさんのご参加、お待ちしております。
https://zetsumono1.peatix.com/view

執筆者紹介

堀 直人
1981年、北海道札幌市生まれ。3歳から江別市に育つ。2010年に、NPO法人北海道冒険芸術出版を設立し、『北海道裏観光ガイド』『n次創作観光 - アニメ聖地巡礼 / コンテンツツーリズム / 観光社会学の可能性』を編集する。2014年から、日本編集株式会社代表取締役。2015年5月から、江別市議会議員。2019年4月14日、市議会議員任期終了と同時に、江別市長選挙に立候補、21438票を得るも敗退。現在は、地域課題を価値に変えるゲストハウス「ゲニウス・ロキが旅をした」の共同出資者/物語担当執行役員など、自治と社会のDiYを実践。
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