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「一匹狼」フリーランス編集者たちの互助組織

先々月、たまたまボストンで一晩だけポコっと時間が空いたときに目についた「Working with Independent Authors」という集まりを覗いてみたので報告します。

ボストンの書店風景。

フリーランス編集者協会のセミナーに参加してみた

ボストンの中心部にほど近い、羽振りの良さそうな若者だらけのIT企業の会議室をアフター5に借りて行われたそのイベントは、全米組織のEditorial Freelancers Association(フリーランス編集者協会)のボストン支部が自主的に開いたネットワーキングとセミナー。協会メンバーのベテランが2人、これからインディー(自己出版)作家と仕事をしていく上でのコツを伝授するという内容でした。

各自が自分の飲み物と、みんなでつまめるおやつを一品持ち寄る「ポトラック」スタイルでカジュアルな雰囲気。集まったフリーランス編集者がたった一人の年配男性を除いて、みんな様々な年齢の女性、というのは私が知るアメリカの出版業界のデモグラフィック(人口構成)と酷似している。これは別に男性をdisって言ってるんじゃなくて、編集こそ男女で能力に差のないスキルだし、在宅でやれるフリーランス編集者という仕事は、子育てや家庭のパートナーの都合などと合わせやすい、というのもあるかと思います。

自己紹介で、ニューヨークから、というより日本から飛び入り参加です、日本でも日本独立作家同盟という非営利団体の理事をしてます、と言うと「わお、ウェルカム!」という反応。他の皆さんも、もともと出版社で編集者をやっていたけれど、なんらかの理由で会社を辞めてフリーになった人がほとんどのようでした。

会議前の風景。女性が多く、和やかな雰囲気。

その日の講師はスーザン・マティソン、ターニャ・ゴールドという30〜40代の女性2人。マティソンさんはノンフィクションの仕事が多く、ゴールドさんはどちらかというとフィクションの「お直し」(キャラクター設定、プロットの穴埋め、gender neutralな言い回しに変えるなど)が専門とか。2人とも出版社に勤めた経験あり。これまでそういった出版社を通して編集の仕事をもらっていたが、最近はインディー作家からの依頼で仕事をすることが増え、相手が業界については素人であることも多いため、一緒に仕事をする上で留意すべき点などを自身の経験から紹介してくれました。

フリーランス編集者のための十二カ条

その日のセミナーで話されたことの中で、ふ〜ん、なるほどと思った点をいくつか箇条書きにしてみます。

やはり皆さん、自分が遭遇した困ったシチュエーションの相談をしたいらしく、質疑応答も活発。自分のの体験を話しつつ、他の人の話も聞けるのが良かったようです。ふだん一人で黙々と仕事をしている分、同業者と繋がりたい気持ちもあるのでしょうね。

フリーランスのいる業種には必ず「互助組織」あり

さて、このイベントを主催したEditorial Freelancers Association(EFA)についても少し説明します。

アメリカではどんな分野に仕事でも、フリーランスの人たちで結成するこういったTrade Association(いわゆる互助組織)がある。EFAはかなり小規模なほうで、恥ずかしながら私もその存在を知りませんでした。

こういった互助組織があれば、おたがいにギャラを報告してブラック企業をリストアップしたり、皆でボイコットするなり、公表するなりできるだろうし、仕事をお願いする側にしても、ギャラの相場がすぐに検索できれば、安く買い叩くことを躊躇するようになると思うわけです。

あるいはスケジュール的、技術的に自分には無理そうな仕事を協会のメンバーに振るとか、こんなアプリやソフトが便利だよ!と紹介するとか、Give & Takeのいい関係を作ることがこういう互助会の秘訣でしょうね。私もこのセミナーに飛び入り参加させてもらって面白い話を聞けたので、「文中に日本語のフレーズが出てきた場合は手伝うよ!」とメンバーが見られるフォーラムに一言入れてもらいました。

日本だと、正社員の人だけが労働組合に入っていて、契約社員は正社員より過酷な労働条件でガマンしているように見受けられますが、契約社員やフリーランスの人たちこそ、労働者としての権利を守る組合や互助会が必要だと思うのです。

執筆者紹介

大原ケイ
文芸エージェント。講談社アメリカやランダムハウス講談社を経て独立し、ニューヨークでLingual Literary Agencyとして日本の著者・著作を海外に広めるべく活動。アメリカ出版界の裏事情や電子書籍の動向を個人ブログ「本とマンハッタン Books and the City」などで継続的にレポートしている。著書 『ルポ 電子書籍大国アメリカ』(アスキー新書)、共著『世界の夢の本屋さん』(エクスナレッジ)、『コルクを抜く』(ボイジャー、電子書籍のみ)、『日本の作家よ、世界に羽ばたけ!』(ボイジャー、小冊子と電子書籍)、共訳書にクレイグ・モド『ぼくらの時代の本』(ボイジャー)がある。
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