サイトアイコン マガジン航[kɔː]

ハリポタもEブック化で著者直販へ

英米の英語圏では、とりあえずどんな本であれ、Eブックもあるのが普通になっているが、今まで全くEブック版がなかったベストセラーがJ・K・ローリングの『ハリー・ポッター』シリーズだ。

シリーズ最終巻から早4年、最後の映画が公開されようという時期に、ポッターファンは「ポッターモア (Pottermore.com)」というサイトができていることに気づいた。著者のローリングがこれをどういうサイトにするつもりなのか、憶測が乱れ飛んだが、蓋を開けてみれば、ファン中心のコミュニティーとして、ローリング自ら更にハリポタ世界へのこだわりを書き下ろすとか。ハリポタグッズも買えるし、本に登場する幻想世界をバーチャルな映像で見せることもするという。

主人公ハリー・ポッターの誕生日に設定されている7月31日にサイトのベータ版が始動し、Eブックの発売は10月に準備されているという。

「ポッターモア」のサイトでプレス用に公表されているサイトイメージより。

同じくプレス用に公開された「ホグワーツ特急」のイメージ画面。

紙の本屋さんからは不満の声が

ここまではオドロキもしないが、ハリポタのEブック版が「ここでしか」買えない、という決定に英米の紙の本屋さんが完全にシャットアウトされた形となり、不満が出ている。

アメリカのインディペンデント書店では、グーグルのEブックストアを通じて、書店のサイトからEブックが買えるようになっている。最近の調査では、全国のインディペンデント書店の約1割がこのグーグルEブックストアをホームページに貼り付けて、「Eブックも買える地元の本屋さん」となっている。

ハリポタ・ブーム当時は、英米ではどんな小さな本屋さんでも、真夜中の発売解禁パーティーやら、ハリポタ・コスプレパーティーなど、それぞれに趣向を凝らしたイベントを行い、『ハリ−・ポッター』シリーズの売上げに貢献してきたという自負がある。それをEブックではただ指をくわえてみているだけ、という状況になってしまうのだ。

一方で、紙の本の出版社(英ではブルームズベリー、米はスカラスティック)と映画会社(ソニー)にはちゃんと売上げの一部が支払われるという。

ローリング本人は、Eブックのガジェットを持っていない人でもハリポタのEブックを楽しめるようにとの判断だと言うが、これではiBookstoreを展開するアップルも、キンドル版で儲けたいアマゾンをも閉め出したかっこうとなった。特に、Eブック発売を機に、いままでiTunesで買えていたハリポタ・シリーズのデジタル・オーディオ版もPottermore.comのサイトだけでの商品になる。

そしておそらくはこのEブック、ePubを使ってのものになるだろうから、そうするとキンドルでは読めないことになる、というのが大方の見方だ。ただ、アマゾンはすでに今秋からキンドルをePub対応にすると発表しているし、10月のハリポタEブック発売に間に合うとふんでいるだろう。

ローリングは、ファンを大切にするからこそ直接自分からEブックを手渡ししたい、という気持ちでいる部分もあるだろうが、このEブックが発売になれば彼女の所(だけ)にさらに数億円単位の印税が転がり込むことになる。

最初はEブックでの読書体験に否定的だった彼女が直販サイトを作るところまで態度を変えたというのが、いちばんのニュースなのかもしれない。

■関連記事
村上龍氏が電子書籍の出版社G2010を設立
大きな写真集を売る小さな本屋さん
ボーダーズはなぜダメになったのか

執筆者紹介

大原ケイ
文芸エージェント。講談社アメリカやランダムハウス講談社を経て独立し、ニューヨークでLingual Literary Agencyとして日本の著者・著作を海外に広めるべく活動。アメリカ出版界の裏事情や電子書籍の動向を個人ブログ「本とマンハッタン Books and the City」などで継続的にレポートしている。著書 『ルポ 電子書籍大国アメリカ』(アスキー新書)、共著『世界の夢の本屋さん』(エクスナレッジ)、『コルクを抜く』(ボイジャー、電子書籍のみ)、『日本の作家よ、世界に羽ばたけ!』(ボイジャー、小冊子と電子書籍)、共訳書にクレイグ・モド『ぼくらの時代の本』(ボイジャー)がある。
モバイルバージョンを終了