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大きな写真集を売る小さな本屋さん

このところの電子書籍の台頭のせいで、アメリカではさぞかしたくさんの小さな街角の本屋さんがつぶれているだろうと思われがちだが、実態は少し違う。拙ブログでも何度も触れているが、「インディペンデント」と呼ばれる零細書店は既に大型チェーン店だの、オンライン書店だのという「敵」との歴戦をくぐり抜けてきたしぶとさを持ち合わせているところが多い。

もちろん、こっちでも毎日のようにどこかの町でずっと続いてきた書店がクローズ、というニュースは聞く。だが実際には、書店が会員となる全米書店協会(ABA=American Booksellers Association)に新規登録した書店がここ2年ほどでは増えており、特に今年度は100店を超える新たな書店が参加したという。

ヴァン・アレン・ブックスの外観。

我が町ニューヨークでは、経済的なトレンドがブルックリンに向いているので、新しいお店ができたと聞いてもブルックリンばかりだったのだが、ここマンハッタンでもちらほらと新しい店がオープンしたという話を聞く。

マンハッタンと言えば、2008年のリーマンショックの後も家賃、特に商業用賃貸物件の値段は全く下がらず、強気にリース料をふっかけてくる大家に対し、ついに息絶える店がいくつもあった。それでも薄利多売の本を売って商売してやろうというアントレプレナーが現れるのは頼もしいことだ。

そんな店のひとつ、ヴァン・アレン・ブックス(Van Alen Books)を紹介しよう。

近くのもっと地の利のいい場所にあったバーンズ&ノーブルが閉店し、居抜きで借りる店も現れず、店舗の半分だけが「トレジョー」になっている厳しいショッピングエリアで、こういうアート系のお店ができたことに少し驚いた。

ヴァン・アレン・ブックスのウェブサイト。イメージカラーはイエロー。

黄色いインテリアが印象的な店

店内はとにかくまっ黄っ黄。店内丸ごと黄色いレゴでできているのかと思うぐらいな派手な色。それでいてミョーに落ち着く。並べられているのは建築関連の本が約1000タイトル。建築の「け」の字を知らなくても楽しめそうな本もあるし、専門書も並んでいる。プロなら6階の特別室に更に1000タイトル、建築家なら垂涎もののマニアックな本が。

ヴァン・アレン・ブックスの店内風景。天井も書棚も黄色で統一。

店内にはイメージカラーである黄色のオブジェも

ブルックリンのパワーハウス・アリーナやソーホーのタッシェン・ブックスがそれなりの需要を満たしていることでわかるように、大判の豪華写真集はデジタルで表現しきれないもののひとつだ。この先、電子書籍がコンパクトになればなるほど、その対比が際立っていくだろう。

だが残念なことに日本ではこの手の大判写真集の文化がない。文化と言うよりはビジネススキームと言うべきか。確かに国土の違いもあるだろう。アメリカの家では、広いリビングの本棚や、大きなコーヒーテーブルの上にこういう写真集を置いてセンスを競うのである。自分のお金で買うのが躊躇されるぐらいの値段設定なので、クリスマスやバースデーのギフトとして贈られる事も多い。

日本人もあれだけ写真好きでカメラ人口も多い上、印刷技術も高度なのに、写真集となるとポケットサイズの小さい薄いものになりがち。出版社の方も、大きくて高額の写真集はリスクが高いので(それはきちんとP&Lを考えて作ってこなかったからなのだが)部数を売らんかな、と値段を安く、薄く小さな写真集を作ってきたからだろう。

だが、小さな写真集ならデジタルで表現できるし、タブレットでもきれいに見せられるコンテンツなので、この先どんどんデジタルに取って代わられるだろうことは想像に難くない。つまりは日本の出版社がいかに「紙でしかできないこと」を考えてこなかったかという問題なのかもしれない。

……というのが、最近「ナショナル・ジオグラフィック」誌のカメラマンにも話を聞いて考えたことだ。ブルックリンのPower House Arenaにしても、ソーホーのタッシェンにしても、写真集を出す出版社が積極的に書店をオープンする、というのもひとつのサバイバルの手法なのかもしれない。

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執筆者紹介

大原ケイ
文芸エージェント。講談社アメリカやランダムハウス講談社を経て独立し、ニューヨークでLingual Literary Agencyとして日本の著者・著作を海外に広めるべく活動。アメリカ出版界の裏事情や電子書籍の動向を個人ブログ「本とマンハッタン Books and the City」などで継続的にレポートしている。著書 『ルポ 電子書籍大国アメリカ』(アスキー新書)、共著『世界の夢の本屋さん』(エクスナレッジ)、『コルクを抜く』(ボイジャー、電子書籍のみ)、『日本の作家よ、世界に羽ばたけ!』(ボイジャー、小冊子と電子書籍)、共訳書にクレイグ・モド『ぼくらの時代の本』(ボイジャー)がある。
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