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ニューヨークで日本人作家の話を聞く

毎年この時期、ニューヨークでは「世界の声」と題されたペン協会アメリカンセンターのイベントが催され、世界中から活躍中の作家が集まる。毎日毎晩、市内のあちこちで様々なイベントが企画され、本好きにはたまらない季節である。ちょうど今年はゴールデンウィークの最初に引っかかったこともあって、日本からの来場者も多いようだ。

そして日本人と日本文学愛読者(←こちらはどのぐらいいるのかわからないが)にとってはさらに嬉しいことに、柴田元幸氏が責任編集を務める文芸誌『モンキービジネス』がこっちの文芸誌A PUBLIC SPACEと共同でモンキービジネスの英語版を特別号として出すはこびとなったこともあり、川上弘美や古川日出男も一連のイベントの一部に出席した。

英語版には他に小川洋子や岸本佐知子らの文章も。日本からも1冊22ドルで買えるよう。

まずはアジア・ソサエティーにて行われたイベントを覗いてみた。ウェブキャストされているので、リンクはこちら(何日かすると録画がアップされると思います)。第1部は川上弘美とレベッカ・ブラウンがお互いの作品の翻訳バージョンを読み合いっこするもの。作品の中で「日常に基づいたリアリズムと、非現実的なシュールレアリズムが交差する」点が共通しているとの柴田先生の指摘。

イベントのウェブサイトにはおなじみ柴田元幸さんのイラストも。

個人的には、両者の作品には登場人物がけっこううわべとは違う、もっと腹黒いことを考えていたりする点も似ているんだが、そういうところに共感している私だけの感想でしょうかね、それは。でも実際はかなりまじめないい人なんだよーん、と自分では思っているのだが。

笑ったのは川上さんが翻訳ものを読んでいてちょっと違うな、と感じたのがヘミングウェイの主人公の「揺らぎのなさ」と言った点。なるほど、そうだろうね。くすくす。ここんとこ、もっと通訳の人がso sure of himselfとか、full of himselfとかって言ってくれてれば、もっと非日本人の人の笑いもとれたと思うけど。オドロキの新事実は、川上さんは最初にハマった翻訳文学がSFだったということと、彼女の実年齢。2つとも「そうは見えない」ところに驚愕。

……すみません。話がそれました。で、第2部では詩歌の鉄人対決(違うって)ことで、俳人の小澤實と詩人のジョシュア・ベックマン。詩歌はハッキリ言いまして門外漢なのでなにをか言わんや。でも、2人とも芭蕉が原点、みたいな共通点があるのはさすがに面白いかも。

贅沢を言えば、もう少しQ&Aの時間をとってもらいたかったけれど、そうなると通訳の人が大変だというのがわかるし、時間も限られていたので、こんなものでしょうか。

日本の作家がなかなか参加できない理由

ペン協会のイベントはこれからも毎年開かれるので、ぜひ日本の作家さんも参加してもらいたいのだけれど、そこにはいくつか問題があるのでした。

ひとつは、日本の物書き業の人たちが、忙しすぎること。こんな数日間しかない催しにも行けないほど、みんな〆切りがギッチリなんだよね。こんな国、少なくとも欧米では考えられません。だって新刊が1年出ないと、読者に忘れ去られる、なんて聞くと、こっちの人は鼻で笑うよ、きっと。最近でもジョナサン・フランゼンのFREEDOMなんて9年ぶりだし、ジェフリー・ユージェニディスも次の新刊で10年近い。

それでなくても日本の作家はあっちこっちにエッセイだの対談だの、そんなにアウトプットばかりやってて枯渇しませんかね? そのためにもこういうイベントはプラスになると思う。かなりいつもと違う刺激を受けるだろうし。ふらっと来てもらえばペン協会でボランティアの通訳がつくし、世界の作家と会えて、話ができてしまうのだから。きっと楽しいよ。

思えば、日本はこういうイベントに力みすぎるのもよくないかもしれない。最初の年には桐野夏生が参加したけど、各社の担当編集者ひきつれて大所帯だった。これには、ボランティア通訳をやった友だちの編集者も他の国の作家さんもビックリ。こっちじゃ作家はエージェント一人、版元ひとつ、担当編集者一人、ってのが原則だからね。

そしてもうひとつネックになるのが、このイベントに呼ばれるには少なくともひとつ何か英語で出されている作品があることが条件。じゃないと、イベントに参加する読者だって、せっかく興味をもってもその作家の作品が読めないんじゃしょうがないし、そもそも読んだこともない作家の話を聞いても面白くないだろうし。ってことで、ここんとこはオノレの仕事なので、自己反省点として挙げておきます。

ちなみに、川上弘美の作品は『真鶴』がCounterpointというところから出ていて、今度『先生の鞄』が私の友人アリソン・パウエル訳で出ます。

・モンキービジネス英語版購入サイト
http://www.apublicspace.org/pre-order_monkey_business.html

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執筆者紹介

大原ケイ
文芸エージェント。講談社アメリカやランダムハウス講談社を経て独立し、ニューヨークでLingual Literary Agencyとして日本の著者・著作を海外に広めるべく活動。アメリカ出版界の裏事情や電子書籍の動向を個人ブログ「本とマンハッタン Books and the City」などで継続的にレポートしている。著書 『ルポ 電子書籍大国アメリカ』(アスキー新書)、共著『世界の夢の本屋さん』(エクスナレッジ)、『コルクを抜く』(ボイジャー、電子書籍のみ)、『日本の作家よ、世界に羽ばたけ!』(ボイジャー、小冊子と電子書籍)、共訳書にクレイグ・モド『ぼくらの時代の本』(ボイジャー)がある。
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