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「電子出版の未来を考える会議」レポート

最近、電子出版への流れは恐らく不可避だろう、と思うようになってきました。このレポートは、そう思うようになったキッカケを与えてくれた勉強会に関するものです。

先月の28日、「電子出版の未来を考える会議」(通称「でんのみ」)という勉強会が開催されました。飲み会と勘違いされやすい略称ではありますが、「でんのみ」は「”でん” 子出版 “のみ” 来を考える会議」という意味であり、えxぺというオンラインユニットの活動の一部として行いました。出版、新聞、金融、オンラインサービス、ライターなどを本職とされている方々で、電子出版に興味がある方々が集まりました。参加の呼びかけ等はTwitter上で行われ、互いにTwitter上で知り合った人々による会議と言えそうです。

「でんのみ」はクローズドな会議のつもりだったのですが、『マガジン航』の編集部からぜひレポートを書いてほしい、との依頼を勉強会後にいただいたので、「でんのみ」において私が「面白い」と思った内容だけを抽出して、まとめてみました。各出席者の方々は個人的な立場でいらしており、以下の話は、勉強会に参加された方々全体としてのコンセンサスではなく、所属する組織の公的な見解でもありませんのでご注意下さい(ただし、出稿に際して、参加者の方々の了承は事前に得ています)。

出版不況ではなく、衰退かもしれない

「でんのみ」の議論の中で「出版不況」に関する分析がありました。出席されていたのが主に出版関連業界の方々であったため、ここの部分で盛り上がりました。分析の中で、書籍全体の中でも特に雑誌が非常に大きく落ち込んでおり、さらに返品率がここ10数年で5%上昇していることや、1タイトルあたりの販売数が落ちていることが示されました。

さらに、話を進めて行くうちに「不況というのは好況があるから不況であり、今の状態は今後の好況が望めるような状態とは思えず、純粋な衰退かもしれない」という意見も出ました。確かに、現状のままであれば「紙」の本のかたちでの「出版」は単調減少を続ける衰退の道を進んでいるのかもしれないと思いました。

電子書籍が必要なのは都市部ではない

「でんのみ」で私がいちばん衝撃を受けたのは、この指摘でした。今回はシスコさん(シスコシステムズ合同会社)に会場をお借りしたうえでWebExによる遠隔参加者を交えての勉強会だったのですが、地方在住の参加者の方からの指摘が、この「地方の現状見てる?」でした。

まず、説明されたのが地方の配本と、首都圏での配本の違いでした。例えば、週刊誌や少部数の書籍などが、地方の書店に実はほとんど配本されていないなどの実例が説明されました。週刊誌の中には「え? これがこの地方では配本されてないんですか?」というものもありました。

また、書店での陳列方法の違いもあるそうです。地方に行くと、地元の小規模書店は消えていて、例えばイオンなどの中に書籍コーナーがあるような形態が増えるそうです。そうすると「書店へ行く」というよりも「イオンに行くついでに書籍コーナーに行く」という形になり、訪問が不定期になるため、最新の雑誌を並べておくよりも、バックナンバーを含めて数ヶ月分を並べておく方がまとめて売れるというノウハウもあるようです。

配本の現実が、地方と都市部とでは全然違うのかもしれません。しかも、日本の人口は首都圏よりも地方全体の方が多いです(東京、神奈川、埼玉、千葉を合わせた人口が約3500万人です)。[参考:「都道府県の人口一覧 (Wikipedia)」]

こう考えると、電子化のメリットを多く受けるのは都市部ではなく、配本が行われない地方になるのかもしれません。色々考えているうちに、現在は通販と郵送による書籍販売が行われている部分が、今後徐々に電子化されていくのかもしれないと思いました。

電子出版は地方でもできる

逆に考えると、電子出版であれば地方でも行えるという話題も出ました。打ち合わせも、かなりの部分がオンラインで可能ですし、原稿のやり取りも実際に合わずに行えます。ある程度、電子出版の業界や販路が確立していけば、その後は地方での起業を行いやすくなるのかもしれません。

地方での電子出版起業に関しての議論中に「都市部にいると逆に”地方の実情”が見えないので良いのだ!」という意見も出ました。電子出版関連の取り組みの多くが首都圏で行われているために、電子出版が本当に必要な消費者を見落としているのではないか、という痛烈な皮肉です。私は、どこか頭の中で「電子出版は先端ユーザーのもの」という意識があったのですが、実はそうではないかもしれない、という事実を痛切に思い知らされた鋭い皮肉でした。

課題があるとすれば、例えば著者と電子出版社のミーティング等がありそうです。ネット上でのビデオ会議等は今でも普通に可能ですが、何かを一緒にやるには、やはり実際に会ってみるというのは必要だと個人的に感じることが最近増えました。

編集者の価値

現在は編集者は出版社の社員であることが多いのですが、今後はフリーの編集者がもっと登場するのではないか、という意見も出ました。

さらに、電子出版が増えて行くと出版そのものというよりも、企画などを通じた出版ブローカー的な人が出現してくるのではないか、という予想もありました。さらに、既存の編集者が編集者としてもっと目立つことが求められる世界が来るだろうという話にもなりました。「○○氏編集による」という書籍の増加ですね。

個人的な感想としては、編集者の役割は非常に大きいと思っています。編集者の方向性で出来上がるコンテンツが大きく変わります。ただ、そのときの編集者と成果物の関係は、一般的には理解しにくいものなのだろうとも思います。

ネット中傷がノベル作家を潰す

編集者の重要性について意見交換を行う過程で、独創的なノベルを書く作家さんは、デリケートな方々も多く、ネット上での中傷によって傷ついてしまって書けなくなるという話題も出ました。これは頻繁に発生する問題らしく、ここでのサポートなども編集者に求められることがあるようです。

しかし、いわゆる「出版不況」の影響で編集者が一人の作家さんに対してケアできる度合いも減る一方で、オンラインにおける作品批評および中傷は増える傾向にある気がします。

マンガ支援サイト

今回参加された@yukanonさんが社長をしているモバキッズが運営している「mangaroo」の簡単な紹介がありました。例えば、以下のように埋め込みでマンガを共有できるようになっています。

専業から兼業へ

現状は、ライターにとって非常にツライ状況かもしれません。コンテンツの価格が下がって行く一方で、より多くのコンテンツを出すことを求められます。

さらに、出版社が倒産したり、雑誌が休刊になったりすることによって、出せる先も減っているのかもしれません。そのうえ、例えば新聞社が大規模なリストラを行って、記者が大量にフリーのライターへと転向すれば、急激な供給過剰状態が発生する可能性もあります。

紙媒体でのライター業が非常に苦しい一方で、電子出版になってコンテンツの単価が下がったときに、ライターに還元される収入も減ってしまう可能性があります。将来は、文章業は兼業で行うものとなり、専業で食べて行ける人数は、今よりもさらに減るのではないかとの予想も出ました。

無料を好む人は10円でも買わない

「無料のものを読む人は基本的に買わない」という傾向に関しての話も紹介されました。例えば、オンライン無料立ち読みなどのサービスを開始したとしても、恐らくそれによって売り上げが上昇することは少なそうである、とのことでした。逆に、有料と無料のものを混ぜてしまうと、有料のものが売れなくなることさえありそうです。

何か微妙に寂しい気もしましたが、「売れる」電子出版サイトを構築するには、たとえ10円であっても「値段をつけること」が重要なのかもしれません。

図書館における電子出版

図書館での電子出版についての話題も出ました。いくつかの方式が出現していることや、同時に読める数を制限することで「貸し出し」という概念を実現していることや、ハードウェアとセットにすることで「貸し出し」を実現している例が多い、という意見が出ました。紙媒体による書籍が減れば、図書館のあり方も今と変わって行くのだろうと思います。

追記:この勉強会は、シスコシステムズ合同会社さまによる会場提供によって行われました。参加者のうち二人は地方にいらっしゃる方々であったため、WebEx(Webベーステレビ会議システム)による半オンラインミーティングでした。会場提供、及び会議システム提供のシスコシステムズ合同会社さまにこの場を借りてお礼を申し上げたいと思います。

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執筆者紹介

あきみち
(ブロガー、Geekなぺーじ)
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