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Wikimedia Conference Japan 2009への誘い

ウィキペディアは、インターネット上にある、メディアウィキを使った、フリーな、多言語の、誰でも匿名で編集できる百科事典である。百科事典としては、じゅうぶんな認知度と、かなりな影響力と、そこそこの信頼性を得ているようだ。ウィキメディア財団によって運営されるプロジェクトのひとつで、ほかにはウィクショナリー(辞書)やウィキブックス(教科書)などがあり、これらの日本語版も、それほど活発ではないが存在している。

パソコンでも携帯でも、iPhoneでも閲覧が可能なインターネットのコンテンツで、専用のモバイル端末もある。ブラウズ用のスタイルのほかにプリントアウト用のスタイルも用意され、最新版をPDFに変換もしてくれる。手間をかければ、他のファイル形式に変換することもできるだろう。既にCD-ROM版や印刷・製本されたものも売られているし、必要なところだけ製本ができるサービスもある。検索の入り口としてはグーグルが使えるし、専用の検索機能もある。もちろん全文を検索することが可能だ。画像や音声などを使うこともできる。ライセンスを守れば、いかようにも改変ができ、商用利用も認められている――電子出版、電子書籍の視点からウィキペディアを説明すると、そういうことになるだろうか。日本語版には導入されていないものも含まれるけれど。

ウィキメディアの諸プロジェクトに参加する人々を、ウィキメディアンと呼ぶ。11月22日に、ウィキメディアン有志によって、初の大規模な催しとして、ウィキメディア・カンファレンス・ジャパン2009(Wikimedia Conference Japan 2009)というものをすることになった。

基調講演にはウィキメディア財団のジェイ・ウォルシュと国立国会図書館館長の長尾真の両氏。午後からは、ウィキペディアと研究・教育とのかかわりを考えるディスカッション、津野海太郎氏や、『ウィキペディア・レボリューション』の翻訳者の千葉敏生氏らのお話があり、ウィキメディアンによる、中国語版やウィキペディア以外のプロジェクトの説明やワークショップ、中山浩太郎氏らを中心とした技術/情報関係のセッションなどに分かれる。

きっかけは、2008年にアレキサンドリアで開催された、全世界のウィキメディア・プロジェクト参加者による集まり「ウィキマニア2008」に日本から参加した人たちによる報告会だった。主に情報処理分野でウィキペディアを対象とした研究が進んでいる。ところが、ウィキペディアンは、そのことを知らない。同時に、ウィキペディアを研究する人、閲覧する人、そして編集する人自身も、ウィキペディアというものが、あるいはウィキメディアというものが、どういうものかはよくわかっていない。

そこで、それぞれが交流する機会を作れないか、ということで、今回のカンファレンスへ向けて、動き始めた。手作りで、できる範囲のこと、というつもりで、今も、ある程度アクティブなスタッフは10人もいないくらい。東大の知の構造化センターとの共催となり、セマンティックウェブとオントロジー研究会ARGの岡本真さんの協力を得て、また、声をかけた方々も登壇を快諾していただき、当初の予想よりも、大規模なものになった。ウィキメディア/ウィキペディアへの関心の持ち方の多様さや強さの表れなのだろうと思う。

もっとも活動がさかんなウィキペディアをはじめとするウィキメディアの諸プロジェクト、および、その活動から引き出せるものはたくさんある。「本と出版の未来」についても。

今回のカンファレンスで、直接「電子書籍」を題材とした発表は、今のところ予定されていない。しかし、長尾、津野の両氏のお話は、深い関係にあるものとなるだろう。ウィキペディアを研究対象として扱う研究者によって、どのようなことがなされているのか、ということは、「技術セッション」で得ることができるだろう。そもそも、ウィキペディアというのはどのような組織なのか、どのように運営されているのか、どういう人が書いているのかということも、あまり知られていない。この膨大なテキストの背景を知ることもできるだろう。

デジタルにすることで、何ができるのか。何が損なわれるのか。あるいは、何ができてしまうのか。できるはずなのに、できないのは何故か。そして、紙に印刷されたものに追いつけないのは何か。ウィキペディアで、既に試みられていること、実現されていることも多いし、そのデータをいじることでも、ただ閲覧するだけでも、自ら考え、試みることもできる。

ウィキペディアは、自発的な参加者によって、作られている。今回のカンファレンスも、自発的に開催を望む人が動き、自発的に参加してくれる人が集まることで、うまくいくのだろうと思っている。この、できたばかりの新しい雑誌である「マガジン航』を読んでいる「あなた」にも、ぜひ参加していただきたいのです。

開催概要

  • 開催日: 2009年11月22日(日)
  • 場所: 東京大学本郷キャンパス(東京都文京区)工学部2号館
  • 参加費: 一般:2,500円、学生:1,500円、事前受付:500円割引
  • 詳細はこちらをご覧ください。

    執筆者紹介

    Ks aka 98
    (ウィキメディア・カンファレンス・ジャパン2010)
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